そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
郁はそのぶるぶる震える肩に手をやった。耳を裂く慟哭。泣き叫ぶ声は、もう伊吹のものではない。涙を流して吠えるその壮絶な姿にのまれ、瑞までもが立ち尽くしている。
「…あなたは誰なの」
志帆だ。叫ぶ伊吹のそばに近づくと、震える声で零した。
「どうして命を奪っていくの!ねえ!」
志帆は本能的にわかっているのだ。いま伊吹に憑いている者こそが、古多賀に祟る元凶なのだと。
「答えて!どうして、どうしてお兄ちゃんが死ななくちゃいけないの!どうしてよ!」
恐怖を超越し、大切な家族への思いがあふれだしているのだろう。志帆は涙を流しながら伊吹を、その内側に潜むものを責めたてる。聞いたこともないほど大きな声で。
身体中の悲鳴をすべて吐き出し切ったかのように、伊吹は背中を抑えぜえぜえと息を弾ませたまま、布団に顔をうずめている。いまにもこと切れそうなその様子。本当に死んでしまうのではないかと、郁は震えが止まらなくなった。
「…きら…れた、」
しゃがれた声が、荒い呼吸の隙間に響く。
「うしろ、から…きられた…」
あの女が、伊吹の口を借りて話しているのか?
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白