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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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少し離れた場所に、誰か立っているのだ。漆黒のシルエット。雲が晴れ、完全に月が現れると、そこに立つ人物も、はっきりと認識できた。淡い月光の中に立つそれは…。


「……すまる?」


瑞だった。しかし、それはいつも夢で見る、あの瑞だった。いま部屋で待機している瑞ではなく、Tシャツにカーゴパンツにスニーカー姿の。いつかの夏の、瑞。

夢が現実になったのか。それともこれはやはり夢なのか。伊吹は指先さえ動かせない。瑞は、月明かりの下で夢と同じに優しく笑っている。

「ごめん、なんか怒らせて」

そういって、瑞はミルクティー色の髪をかきながら近づいてきた。ふわふわの柔らかそうな髪が風に揺れ、幻ではないことを知る。これは夢じゃない。現実だ。目は覚めている。

「ばかみたいなケンカしちゃったけどさ、」

伊吹の座る目の前で、瑞は止まった。

「おまえを守りたくて必死なんだ。ごめんな伊吹」

ちょっと困ったような笑顔と、気遣うような声。懐かしさ。あの瑞とは違う瑞だけど、それでもこの目の前の瑞も、やはり伊吹にとっては特別な存在なのだった。

「…知ってるよ」

伊吹は答えた。あいつの気持ちは、わかっているつもりだ。一方的な言い分に承服できなくてケンカにもなることもあるけれど、それでも、お互いの思いはわかっているつもりだ。理解できているつもりだ。だからこそ、腹を割ってケンカができるのだ。信頼関係の上になりたつケンカだ。

「ちゃんとわかってる。ありがとう…」