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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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午後十一時。

「ではお先に休ませていただきますね。みなさんも、どうか無理なさいませんよう」

先に休む潤子が自室へ行き、客間や台所の電気が落とされた。夜半に出てくる女との接触に向けて、一同は寝室へ移っていた。電気をつけてそのときを待つ。
颯馬はスマホをいじっており、郁は昼間歩き回って疲れていた志帆とともに、身を寄せ合ってウトウト眠っている。瑞はというと、布団に横たわってじっと動かない。起きているのだろうけれど、言葉を発しない。

「…ちょっとトイレ」

伊吹は立ち上がり、一人廊下へ出た。まだ視線は強まっていない。女は出ないだろう。本当はトイレではなく、瑞とケンカした気づまりな状況から抜け出したかっただけなのだが。

(くだらんケンカした)

縁側のガラス戸をあけると、ひんやりとした夜風が流れ込んでくる。月も星も雲に隠れているようだ。静かだ。伊吹は座って庭を眺める。灯篭の光が揺れていて、幻想的だった。

(なんでこうなるかな)

でもまあ、遠慮なくずかずかと文句を言う瑞を見て、少し安心したのも事実だ。本音で話してくれていることがわかる。もう距離を計りかねて、遠慮したり、口をつぐんだりしなくていい。

(それにしても、あんぽんたんとか…)

伊吹はクックと声を殺して思い出し笑いを浮かべる。口ゲンカの語彙力のなさときたらどうだ。小学生じみた意地悪を言う瑞がおかしかった。ケンカをしたのに笑っているなんて、自分もまたおかしいのだけれど。

風が少し強くなった。戻ろうかと腰をあげようとしたところで、雲の隙間から月の光が落ちてきた。暗かった庭の風景が少しずつ浮かび上がる。

「…え?」

伊吹はそこに、信じられないものをみた。