そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
祟られた当主
「わたしの家は呪われています。古多賀の家は、跡継ぎである長男が、世継ぎを残すと必ず死ぬんです」
必ず死ぬ。隣の瑞の声が、繰り返す。伊吹は、賑やかな店内の雰囲気が、この席の周囲だけを切り取って遠ざかっていくような錯覚を覚える。
「古多賀の家では、必ず男児が二人生まれます。わたしにも、兄と弟がいます。けれど家を継ぐのは必ず次男です。現在の当主も、わたしの父の弟です」
「じゃあ、きみたち兄弟の父親も?」
「はい、四十代で亡くなっています。十年前に。先代も、先々代も、その前の代も。製紙業を興す前からそうだったようだと…」
命を捧げる…。
「遺伝的な病気があるとかではなくて?」
瑞がそう尋ねる。
「死因は様々だそうです。病死、事故死、自殺…わたしが調べた印象では、病気などの遺伝的な要素や法則は見受けられませんでした。でも、必ず死んでいます。そのほとんどが、次代の世継ぎ、二人の男の子を作ってから。三十代から四十代の若さで」
本当にそんなことがあるのだろうか。伊吹は志帆の隣に座る颯馬を見て反応を伺う。颯馬は目が合うと、呑気にニコッと笑みを浮かべた。なんだそのアピールは。なぜこの状況で笑いかけてくるのか謎だ。
「おうちのひとは、それについてどう捉えているの?」
切り出したのは郁だ。心配そうに眉根を寄せている様子は、友だちの悩みを真摯に聴いているような親身な姿だった。
「諦めている、というんでしょうか。仕方ないことだって。家業の成功と引き換えに、長男の命を奪うのだろうって」
「誰が奪うっていうの…?」
「守り神とか、祖先とか、そういったものを指すのでしょうけれど、わたしにはわかりません。呪われているのだと思います」
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白