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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編

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「で、でも、ちょっとほんとかわいそうなんだよ。何とかしてあげたいんだ」

かわいそうって、幽霊にでも悩まされているのだろうか。郁はこっそり彼女の様子を観察する。痩せていて、化粧けのない顔。色を失ったくちびるは、緊張しているのかわずかに震えている。

「伊吹先輩は、古多賀って聞いて何か思い出しませんか?」
「え?コタガ、コタガ?…あ、古多賀って、古多賀製紙?」

なんですかそれは、と瑞。彼は京都から来たから知らないのだろう。郁でも、この名前には聞き覚えがあった。町に、いくつも事務所があり、大きな工場も存在している。

「彼女の家は、古多賀製紙といって明治から続く製紙工業を起こした一族なんだよ。志帆ちゃんはその本家筋の長女ちゃんなんだって。すごいよねー」

お嬢様、ということか。
郁らも小学生の頃、町の歴史の中で習ったし、本社工場に見学に行ったこともある。
へええ、と息をのんで感心する郁らだが、志帆の表情は暗いままだ。俯いて、一点をじっと見つめている。追い詰められているような、そんな落ち着かない瞳。

「とにかく話して」

瑞が促し、彼女はかわいたくちびるを静かに開いた。

「…幽霊が出るんです」

予想していたとはいえ、その声の暗い響きに、郁は寒さを覚える。テーブルを見つめながら、小さな声で彼女は続ける。まるで、誰かに聞かれるのを恐れているかのような、震えるような声だった。