そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
放課後の部活を終え、颯馬に指定されたファミレスに入る。同じような高校生や家族連れで、店内は賑やかだった。
郁は、瑞と伊吹に簡単な事情を説明されてここに来た。相談を聴いてほしいのだという。それにしても驚いたのは、彼が沓薙山で天狗を祀る神社の末裔だということだ。そんなふうには全く見えない男なのだ。
「なんだろうね、相談って」
「厄介そうだよな。あ、いた」
颯馬が奥の席からにこやかにやってくる。制服姿だ。彼もまた部活帰りらしい。
「すみません。部活のあとに。座って下さい」
伊吹、瑞、郁の順にボックス席の片側に腰を下ろす。向かいの席には、他校の制服を着た少女が黙って座っている。
「えっと、このひとらがさっき話した俺の友だち。伊吹先輩と、瑞くんと、郁ちゃん」
颯馬は少女の隣に座って、郁らを紹介する。
「…こんばんは」
小柄な少女だ。暗い、という印象を持ったのは見た目ではない。雰囲気が、なんというかほのぐらいのだ。取り巻く空気が淀んでいる。隣の颯馬が明るいぶん、それが目立つ。
「この子ね、聖和女子の一年生、古多賀志帆(こたがしほ)ちゃん」
颯馬に紹介され、彼女はほんの少し頭を下げる。ショートカットの、地味な女子だった。目元には暗い影が浮かんでいて、郁は何だか落ち着かない。聖和女子といえば、私立のお嬢様学校ではないか。濃紺セーラー服にボルドーのリボン。金ボタンには品格があり、ブレザーの郁はうらやましい。
「聖和女子には知り合いの子が何人かいるんだけど、そのうちの一人が志帆ちゃんと同じ茶道部でね?その子から困ってるから助けてあげてよって頼まれたんだ」
なんでそんな面倒なことを頼まれて断らないのだ、と伊吹と瑞が同時に考えているであろう表情を浮かべた。それに気づいて、颯馬はちょっと気まずそうに口を尖らせる。
「レイちゃん正義感強い子でさー、困ってる志帆ちゃんのことほっとけないんだって。あ、別に俺がレイちゃんに頭があがんなくなちゃったとか、そういうのではないから」
必死に否定しているが、おそらくというか間違いなく女関係で何かあったのだろう。レイちゃんとやらを怒らせ、お鉢が回ってきたというわけか。最低だな、と冷たく言い放つ伊吹の顔には、絶対零度の無表情が張り付いていた。ひい、と颯馬が息をのむ。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白