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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編

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朝食を終え、郁は、瑞と二人で屋敷の中を見て回った。立派な庭の池では鯉が泳ぎ、水面に青い空を映し出している。

(昨日、足音なんてしてなかった…ぜんぜん、気づかなかった)

瑞の隣を歩きながら、郁は昨晩のことを考えていた。足音、そして部屋に入ってきたという何者か。隣の部屋でそんな恐ろしいことがあったというのに、ぐーすか眠っていた自分が情けない。床に就いている伊吹のことも気にかかる。

「別に、嫌な気配とかはしないんだよなあ」
「きれいなお屋敷だもんね」

颯馬が言うように、家ではなく血に憑いているということのだろうか。昨夜、訪れた足音の主は女だったのではないか、と瑞は言っていたが…。瑞の霊感は、とくに何も捉えていないようだから、このままでは調査はどんづまりだ。

「古多賀家の歴史を紐解くのが近道だろうけど、親族にその気なしってのがなあ」
「うん…もっと分家?のひとたちに話を聞けるといいのにね」

志帆は孤軍奮闘している。いまも屋敷を出て、近しい親戚に話を聞きにいっているのだ。家のなりたちについて。表には出ていない、一族の繁栄について。

「誰かを犠牲にして栄華を誇るっていうのは、よく聞く話だよな」

池の鯉を見下ろしながら、瑞が言う。秋風にのって、隣からイチジクの甘い香水が香る。

「何かを犠牲にして、大きなものを得る…。神様っていうのは祟るのもいるから」
「この間の、いみご様も…」
「あれは髪の毛を捧げて憎い相手を呪う、っていう程度の低いやつだったけどな。今回のは、家だぞ?規模がでかいよ、命を捧げるっていう代賞も、ものすごく重い」

命を代償に…。

ぽちゃん、と後ろで鯉がはねる。

「わかんねえなあ、なんで伊吹先輩なんだよ…」

苛立っている声に、なんと返していいかわからない。何もわからないまま、危険だけが伊吹に及んでいる。それが、瑞を焦らせているようだ。

(なにか…あたしも役にたたなくちゃ…力になりたい…)

しゃがみ込む背中を見降ろしながら、郁は無力な自分を奮い立たせる。