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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編

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「そうだな、まだ八時前だし…ん?」

あの古ぼけた柱時計を見やり、伊吹は気づく。
大きな柱時計は、時を刻むことをやめてしまっていた。そういえな昨日聞いた時を告げる荘厳な音を、今朝はまだ聞いていない。

「とまってるね」

二時半を過ぎたところで止まっていた。大きな振り子も。昔絵本で読んだ、「おおかみと七匹のこやぎ」の小さな子ヤギが隠れたあの時計と同じに、大きく存在感のある時計。時をとめた今は、不気味な生き物が息をひそめているように感じられた。

「ああ、またですか」

朝食を運んできた志帆が、とまっている時計に気づいてガラス戸をあけた。

「すごく古いもので、こうしてたびたび止まるんです。ゼンマイをまかなくちゃ」

志帆が中から取り出したゼンマイの先を、時計盤にあいている小さな穴に差し込んだ。

「すごいね。こんな古いのにずっと動くんだね」

颯馬がいたく感動している。電化製品と違い、ゼンマイをまけば半永久的に動くんでしょ、と嬉しそうだ。

「そうかもしれません。でも、こうしてたびたび止まるということは、寿命が近いのかもしれません」

短針、長針、それぞれのゼンマイをまいて、時を合わせて蓋をとじる。コチコチと振り子の揺れる音が聞こえ始め、物言わぬ不気味な生き物は、再び時を刻み始める。

(…不気味、って)

瑞は内心、自分がそのように時計を形容するのに驚いていた。

不気味。

なぜこの時計に対して、そのような印象を抱くのか、自分でも不思議だった。