そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
不気味
「どうだ?」
翌朝。朝食の準備をしている志帆と潤子を抜き、瑞、颯馬、郁は客間に集まっていた。あれから足音は現れなかった。不安なまま夜明けを迎えた。
「眠ったよ。簡単な結界を張ったから、しばらくは大丈夫。弱いやつなら近づけないし、明るいうちは効くはずだよ」
伊吹の布団の周囲を、天狗池の御神水で清めたという颯馬が戻ってきた。ゆうべ殆ど眠っていない伊吹は、奥の座敷でようやく深い眠りに落ちている。
「よかった、おまえがいて」
「でしょ?結界くらいならおまかせ。いろいろお守りグッズ持ってきてるからね」
得意げな颯馬。聞けば、何も事情を話していないのに、あの強面のじいちゃんが黙って持たせてくれたのだという。憎らしいが、神社の跡継ぎである彼の力に頼らざるを得ないようだ。
「でも正体がわからないと対処の仕様がないよ。しっかり調査しなくちゃね」
そうなのだ。
「どうして神末先輩なの?祟られてるのは長男でしょ?先輩はこの家とまったく関係ないのに、どうして狙われるの?」
郁が不安そうに続ける。瑞にもわからない。まったくわからない。なぜ伊吹なのだ?ここにいるのは、古多賀を祟る者のはずなのに。
「…このまま先輩に負担がかかり続けるようなら、調査は中止することになる」
「そうだよね…」
あのひとに何かあったら…。瑞は不安につぶれそうになる胸をおさえる。
狙われる理由も原因も、正直どうでもいい。本当に危機が迫っているのなら、この屋敷から逃げ出さなくてはならないだろう。
「まあ、まずは朝ごはん食べてからだね」
颯馬が笑う。場違いなさわやかな笑顔で。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白