そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
「…何かあった?」
郁と志帆に、いまあったことを伝える。
二人は驚愕の表情を浮かべる。聞けば、足音になどまったく気づかず、こちらが騒ぎ出すまで眠っていたのだという。
(俺も颯馬も、眠ってた…)
颯馬は電気をつけるまで夢の中だったし、瑞も夢で目ざめた。足音に強く反応を見せていたのは、伊吹だけだ。
「神末先輩…顔色悪いです。まだしんどいですか?」
「大丈夫。起こしてすまん…」
郁の気遣いに、伊吹が力ない笑みを見せている。
(…この家で、長男の真司郎さんだけが、足音を非常に気にしていた。死への恐怖という心理的なものが一因だと思っていたけれど…これはやはり特定の誰かを狙っているのだろう)
死を迎える運命にある長男ならば、その理屈も通じる。しかしなぜ、この家にまったく関係のない伊吹にここまで影響が出ているのだろう?
「朝まで電気をつけて眠ろう。そっちも」
女性陣にそう声をかける。
「俺と颯馬が交代で起きてるから、なんかあったらすぐ呼んで」
「…わかった」
不安そうな郁らを部屋に返したとき、颯馬がホットミルクを持って戻ってきた。
「なんかうなされてましたよ?はい、どーぞ」
「…ありがとう」
颯馬からカップを受け取り、伊吹はぽつぽつと話し始めた。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白