そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
夕食のあと、何かが起きるわけでもなく、古ぼけた柱時計が時を刻んでいく。夜は深まり、十時を告げる鐘が鳴った。特に、何も起きない。足音が聞こえるというのは、もっと夜が更けてからだという。それに備え、瑞らは早々に床に就くことになった。
「枕投げたりトランプしたりしよーよー」
「はーい、やかましいでーす。もう寝てくださーい」
ブーブー言う颯馬を無視し、瑞は電気の紐をひっぱった。電気を消すと真っ暗になる。颯馬が何かぶつぶつしゃべっていたが、伊吹が眠り、瑞も黙り込んでしまったので、諦めて口を閉ざしたようだった。漆黒の部屋、庭園側の襖に、今夜は月明かりも届かない。暗い夜だ。時折山鳩が寂し気に鳴いている。
(足音…いつ来るかな…)
緊張もあったのだろう、力が抜けたいま、ようやく瑞も心身の疲労を意識する。
慣れない枕に頭をあずけ天井を見上げていると、徐々に眠りに引かれていく。瑞の意識は、ゆっくりと夜のなかに溶けていった。
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作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白