そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
おとづれ
起きろ。
誰かに呼ばれている気がする。どこから?自分の意識の深いところから…。
起きろ。おまえの役目を果たせ。
誰だろう。眠いのに。やめてくれよ。
「起きろこのボケ!主の危機にグースカ寝ているやつがどこにいるッ!」
怒鳴られた。
「!?!?」
飛び起きる。耳元で怒鳴られた!もちろん、暗い部屋の中に瑞を怒鳴ったやつなどいない。しん、とした夜の中で、隣の颯馬が幸せそうな寝息をたてているだけだ。パニックだった頭が、静かに冷えていく。主…?主だって?
颯馬とは反対隣で眠っている伊吹の気配に集中する。
「…う」
布団をすっぽりかぶっている伊吹が、呻いている。寝言かとも思ったのだが、先ほどの怒鳴り声もあって胸騒ぎがする。耳を澄ませると、やはり苦しそうな声が聞こえた。
「先輩?」
電気の紐をさぐりあて、明かりをつけた。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白