そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
言ったのは颯馬だ。お茶請けの羊羹をもぐもぐしながら続ける。
「問題があるのは土地ではなく家でもなく、一族の長男。死んでいった歴代の長男やその家族の中にも、同じような怪奇現象を経験したひとがいるんじゃない?」
それについては、調べきれていないのだと志帆は言う。
「祖母や分家の親戚など、長寿の方は多いのですが、この間も申しましたように、この件は家業繁栄のためやむなしという考えが根強くて。調査をしていることが発覚すれば、きっと止められます。だから…」
親戚や家族はあてにできないということか。
「…屋敷のなかを見せてもらっていいですか」
「はい、ご案内します」
とりあえず、屋敷の中を巡ってみよう。立ち上がった時、郁に呼び止められた。
「あたし、神末先輩の様子見てから行くね」
「ああ、頼む」
横になっている伊吹のことを思う。心配だった。
「ねー、どの部屋でも昼寝できそうなくらい広いよねー。枕投げしよーよ」
それに比べ、颯馬の呑気な事と言ったら…。
「おまえは元気だなあ」
「俺はほら、強いのついてるから、別にヘーキ」
そうだ、こいつは神社の跡継ぎ息子。天狗をはじめとする沓薙四柱の加護を受けているのだ。頼りにしてるよ、と瑞はその背中を半ば嫌がらせを交えて叩いてやった。
そのとき。
ボーン、ボーン…
屋敷の中に音が鳴り響く。見れば、客間の立派な柱に、古ぼけた柱時計がかけてある。黒木の、すすけたように汚れている時計だ。大振りだった。ガラス戸の中で振り子が揺れており、午後二時を鳴らす音を奏でていた。
「すごい古い時計だな」
「以前ここを立てる前に本家だった場所から、兄が持って来たんです。わたしたちは、この音を聞きながら育ちました。電池じゃなくて、ぜんまいで動いてるんですよ。時々止まるけど、大切に使っています」
へええ、と颯馬が興味深そうに眺めている。しかし瑞には、時を告げる音がいやに不気味に聞こえるのだった。まるで、なにかよからぬことが始まってしまう合図の様に。
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作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白