そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
森だ。いつかも夢で見た森。深い緑に、月の光が注いでいる。夜だ。月明かりが、毒々しいばかりに降り注いでくる。瑞は一人、夢の森を歩いている。懐かしいような、それでいて胸騒ぎがするような不思議な感覚とともに。
「…あれ、」
開けた場所に出る。鏡のように美しい池があり、その水面に満月が浮かんでいた。池のほとりに、誰かが立っている。ミルクティーのふわりとした髪。Tシャツにジーンズ、スニーカー姿。
(…なにこれ、俺じゃん)
目の前にいるのは、瑞だ。もう一人の自分が、じっと睨むようにこちらを見つめている。対峙すると、もう一人の自分は口を開いた。苛立ったように。焦れているかのように。
「覚えてるか?」
問われた。自分に問われるというのは、おかしな感覚だ。自分自身を評するのにいささか使いたくない言葉だが、態度がでかいというか、ふてぶてしいなと瑞は思う。
「何をだよ」
「前にも、似たようなことがあったろ」
目の前の自分はそう言った。
「おまえさ、ちゃんと伊吹を守れよ」
鋭い瞳が瑞を射る。これは警告だ。瞬時に理解する。ゆら、と視界が歪んでいく。夢が終わる。意識が現実へと帰る直前、瑞は声を聞いた。
「――それがおまえの、お役目だったろ…」
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作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白