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神社寄譚 3 捨て人形

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krzysztof Penderecki ? So
ng of Cherubim
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=fvwrel

その後私は順調に回復し退院した。
結局二週間ほど入院していたが社会復帰すべく
会社にも問題なく通えるようになった。
そして休みともなれば祭りの準備で神社に向かう。
もう祭りまで時間は少ない。
役員たちはほぼ全員あれから、どこかしら怪我をしてい
る状態で
意気消沈した空気に包まれていた。
祭りが本当に出来るのか?というところまで追い詰めら
れていた。
宮司は私の顔を見ると「あぁよかった。一時はどうなる
かと心配したよ。」
と声を掛けてくれた。私も宮司に大事無くよかったです、
と告げた。
例の人形は社務所の裏に置いてあり、宮司としても扱いに困り
海辺のほうの神社の宮司にお祓いを頼んだそうで。
その宮司さんが黒い高級外車で乗り付けてきた。
その男は若い頃から神道でも神秘主義に傾倒する神道の
方の研究に長け陰陽師とかそういう訓練もされているらしい。
過去に狐落としを三日三晩祈祷し続け、体毛という体毛全て抜けたという男。見るからに毛というものがない。日差しが眩しいからとサングラスを掛けた様相は宮司というよりはスジ系の人に近いものがあったが。社務所にあがると例の人形と対面した。
スキンヘッドの宮司が人形を睨みつけること約一時間。
似合わない甲高い声をあげた。
「全く手に負えん。」
その宮司が言うには幾度と無く捨てられては拾われてきたこの人形にはその過程で凄まじい怨念を重ねて掛けられてきた。
「ひとのそれだけではなく、獣の怨念も幾重にも重なっている。」
のだそうだ。
「迂闊に手を出そうものなら近づくもの全てに禍をもた
らすような途轍もなく悪い代物である。」
のだそうだ。
とにかく宮司が行なったように行なうのが賢明ではあるが、これはひとりでは力不足。二人三人の力を集中してご祈?せねばならないほどの力
を持っているという。
しかも住宅地の真ん中のこの神社で行なうよりは山間部
に移したほうがよいと話す。
するとスキンヘッドの宮司が携帯を取り出し電話をしだす。
そして今対面している人形の姿かたちを伝え、この人形がどういうものであるのかを伝えた。そしてわが神社の宮司に伝えた。
山梨の山に囲まれた神社の宮司と話した結果、今からそ
こに向かい御祈祷を受けそれからお炊き上げしてしまおうということになった。宮司の指示でタカさんを迎えに行くと、タカさんはゲッソリとぐったりとしていた。これから山梨まで御祈?を受けに行くと告げると、準備をしだした。
「そうだな。宮司さんがそう云うならよ。そうしてもらったほうがいい。」
「ところで・・あの人形はいったい・・どこで・・買ったものなのですか?」
私は不躾にそんなことを云ってしまった。
するとタカさんは手を止めて言葉少なにモゴモゴと私に話してくれた。
なぜタカさんの家にあったか、タカさんはわからない。
タカさんも責任感じてか、いろいろ家族に聞いたが、いつそれが物置に現われて、なぜ突然、啼き出したかわからない。
ただ人形が啼き出してから_。
ばあさん、入院。
おかみさん、ノイローゼ。
息子、交通事故で重症。
タカさん自身も貧血で倒れる等など。
タカさんとしても藁をもすがる気持ちだったのだ。
二人の宮司とタカさんと私、運転手役のハジメさんとヒデさんが車に乗った。八人乗りワンボックスで県境に向かい走り出す。
人形はガラスケースから出して風呂敷に来るんでスキンヘッドの宮司が抱きかかえている。街を抜けて坂を下り川沿いの道に出て上流に向かって走る。随分と飛ばすなぁ、と思っていると、やがて山間部に入り坂を登りトンネルを越えたときハジメさんが急ブレーキを踏む。
「どうした!」
と皆が声を荒げるとハジメさんが、「ブレーキの利きが突然悪くなりやがった。」という。
そろそろと走り出して、すると大きく下る坂となる。
ブレーキのことが気になり、エンジンブレーキを利かせながら下りてゆく。が、坂がきつく簡単に50-60キロ出てしまう。しかも曲がりくねった山道。ガードレールの向こうは深い谷。ハジメさんのハンドルを握る手に脂汗が滲む。いちばん低いところに辿りつきハジメさんはいったん車を停めて息をつく。
「急ぐ旅ではない。ゆっくり行けばいい。安全第一。」
宮司の言葉にハジメさんは再びアクセルを踏み込むと今度は登坂を登り始めた。
クネクネと曲がる道を走ってゆくと山中に通づる旧街道筋に出る。
ガソリンスタンドがあるのを確認すると、ハジメさんは車を寄せた。
皆、車から降りてトイレに駆け込むもの、ジュースを買いに走るものと散り散りになった。ハジメさんはガソリンを入れ、スタッフにブレーキを診てもらった。
「いやぁ・・問題ないですけどねぇ・・寧ろ利きすぎるぐらいだと思うんですがねぇ。」
私は缶コーヒーを飲んでいたのだが、スキンヘッドの宮司が鼻血をたらしている。
「鼻血出てますよ・・。」
スキンヘッドの宮司が慌てて鼻血を拭きとる。
神職たるもの衣服に血がついたらたいへんだ。
私が心配すると、なんでもないんですがね・・と答え、
子供のとき以来だ、と軽く笑うが
車に戻ると目が広がった。
人形がびっしょりと濡れているのだ。
まるで汗をかいたように。
隣接するコンビニで買い物をしたものがいたのでコンビニ袋の中に入れた。
なにか不穏な空気が流れ、しかし仕方が無いので皆車に乗る。
すると県境の川に沿って伸びる山道に入ってゆく。
舗装状態が悪くなり、さらに道はクネクネと曲がる。
「焦るこたぁないさ。」
山の中の神社に向けての分岐する道を曲がると「もうすぐさ」とヒデさんが終始、ハジメさんにリラックスするように声を出していた。
「ほらラジオでもかけてさ・・」
ラジオのスイッチを入れると山間部だからかノイズ交じりの音がスピーカーから流れる。しかしキューンという音が響くとまるで獣の雄叫びのよ
うな声がする。これにはたまらずタカさんが「頼む、ラジオ停めてくれい」と叫んだ。道端に車を停め下りると込み上げたものを吐き出した。

いったいなんなんだよ!なんの罰が当たったというんだ!もうたくさんだ!

タカさんの叫びは山に響いた。車内にいる人間は皆、尋常ではないこの事態を嘯くものはもういなかった。
宮司が云った。
「今日で全てを終わらせよう。」
車は山間部の神社の参道の前に辿りついた。
携帯も圏外になるような山深い神社。
なにかゾッとするような静寂に包まれている。
こんな山の中なのに鳥一羽、虫一匹の声もしない。
異様な空気の中、長い参道を歩いてゆくと古いが大きな鳥居がある。
そこを通って一行はその神社の境内に入る。
とても大きな神社だがひっそりとしている。
すると若い神職と共に年老いた宮司が現れる。
ウチの神社の宮司よりも高齢のように思える。
皺くちゃな顔ながら、ドスの利いた声で挨拶する。
「よく来られました。」
ニコリともせずに参集殿に通される。
この宮司にはもうこの妖しさ禍々しさが伝わっているようだ。
そのことを目配せで示した。
作品名:神社寄譚 3 捨て人形 作家名:平岩隆