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神社寄譚 3 捨て人形

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我々の表情があまりに救いを求めていたからだろうか。
「ここは昔から野武士が民を襲っていた土地。逆に民が野武士を襲ってもいた土地。因果応報の末、吹き溜まったこの土地の罪穢れを浄化するのに建てられた社です。ここは解かっている限りでも多くの血が流れた土地でね。それだけじゃない獣の類もアヤカシの類もここで葬られております。」
我々が茶を進められている間に、若い神職が護摩木を組み御炊き上げの準備をしている。
「ここは田舎だから。神仏習合の頃の影響が強いのかもしれない。
いやもっとも、山が深すぎて開墾が出来なかったからかもしれませんが。
この神社の下には小さな寺のお堂があるんです。
経緯は複雑ですが、私はその寺の住職も兼ねています。
奇異に思われるでしょうが、ここならではの風習なのです。
お寺があるということは、勿論、裏山一帯は墓地でこの社の裏には祖霊舎があるのです。」
そのとき私の頭の中に「霊場」という言葉が浮かんでいた。
「なるほど確かに霊場ということばが適切かもしれませんね。」
私の脳裏に浮かんだ言葉を見透かしたというのか・・。
この皺くちゃの宮司は古い神道に精通しているばかりでなく、呪術自体にも詳しいのだという。
「こんなときのために、誰かが知っていなければいけませんからね。」
三人の宮司が打合せを行ないその場で祝詞を作った。
祭員たるタカさん以下のものには大祓詞(おおはらえことば)の書かれた紙が渡された。狭くて古いが清々しく清掃された拝殿に通される。
修祓(しゅばつ)を受け大麻で祓われる。
そのとき台の上に備えられた人形が低い唸るような声が上げた。
祝詞座が三つ設けられて宮司たちが座る。
宮司たちが祝詞を奏上する。
なにか重苦しい空気が場を包み込み、明らかに誰でもわかる程度の声の大きさで人形がうめき声を上げる。タカさんが激しい怒りの表情を見せた。
人形がガタガタと揺れて獣の咆哮のような声を上げる。偶然なのか解からないが、電球が切れて拝殿の一部が暗くなる。我らが神社の宮司が声を上げる。
「大祓詞奏上!」
我々も宮司たちに合わせて大祓詞を大声で奏上する。
いにしへより伝えられた罪穢れを祓い去る祝詞として知られる祝詞。
二度ならず三度この祝詞を唱える間、人形は鳥とも獣ともつかない声で啼いていた。そこに宮司たちが切り麻を巻いて祓えを行なう。
そのときの人形の形相ときたら、髪の毛が逆立ち紫色の顔に変わっていた。宮司が人形を手に取り大祓詞を奏上しながら表に出る。
我々も奏上しながら表に出ると護摩木を親火として既に火が立ち上がっていた。
「降り積もりきたる罪穢れを祓え給い、悪しきものどもを神祓いに祓い給え!」
そして人形を業火の中に投げ込んだ。
人形は山に響くほどの叫び声を上げて、燃えていた。
まさに断末魔の叫びと思えるほどの叫び声だった。
やがて燃え落ち、灰になった。
そして御祈祷が終わり_。
宮司たちも祭員たる私たちもぐったりと疲れきってしまった。
皺くちゃな宮司は私たちを前に語った。
「あの人形に獲り憑いたものは、あまりに多くの醜いものでした。
怒り、嫉妬、監禁、暴力、殺人、強欲、姦淫、食人、人
身売買弱いものいじめ、見て見ぬ振り、黙殺、ぁぁ思いつく限
りの悪が降り積もっていました。それだけじゃない。人間のものではない、獣の掟すら外れたこの世のものならざる悪が。途轍もなく強い悪が取り憑いていました。私もこんなに激しいものは初めてでした。
之までに係わるもの全てに不幸を振り撒き、それに陥る状を嘲り笑ってきた恐るべきものでした。だが神々に皆様の思いを告げ、この凄まじ
いほどの悪をこの世から取り除くことができました。ご苦労様でした。そして、お疲れ様でした。」
私は、気になっていたことを聴いた。
それは私が入院したこと、そしてその入院先でのことを
・・。
「一概には言えませぬがな。
あれは人間の弱いところを突いて来る。
恐らくあなたの扁桃腺は昔から弱かったのでは?」
ええ・・そのとおりです。
「だから扁桃腺を突いてきた。
あなたが苦しむさまを見てあれは喜んでいた筈。」
ええ・・それにも気がつきました。
「だがあなたは優秀なお医者さんによって助けられた。
となれば・・あれはあなたを追って病院に向かったのか
もしれない。
そこであなた以上に弱っている人間を発見したとしたら
・・」
やはり・・あれのせいですか。
「私はそう思います。」
やはり・・あれが病室の他の方たちを・・
「それについてあなたは考える必要は無いでしょうよ。
あなたは宮司やその病院のお医者さんや看護婦さんによ
って守られていたのです。
だから感謝をするのです。あなたを守ってくれた全ての
人たちに。
そしてあなたを守り給うた神々に。」
私は深く頭を垂れた。
タカさんに向かって更に話を続けた。
「いつのまにか、あれはあなたの家に舞い込んだ。
誰かが舞い込ませたのかもしれない。
あぁいうものに触れている時間が長くなると人間の中に
は悪に染まって
しまうものもいます。だからどうしてあなたの家に舞い
込んだのかはわからない。
しかしあなたの力で悪は祓えることが出来ました。
ご家族にもこのことをお話してください。」
まるで鮮血のような真っ赤な夕暮れ空が広がっていた。
私たちは参道を下り、車に向かった。
そこで最期の超常現象を目の当たりにしたのだ。
車のタイヤがパンクしていたのだ。
「マジかよ・・。」
しかし皆の気持ちは明るかった。なにか清々しい顔をし
ていた。
「さぁ、さっさと直して帰ろうぜ。」






【オオサカタロウ】
私はGIジョー以外の人形が苦手です。
偶像化したものには必ず魂が宿る。思い通りに動き回る
人間をガラス玉の目で見ながら、どんな考えを浮かべて
いるのか。
この話を読んでいて、和歌山の淡嶋神社を思い出しまし
た。
ペンデレツキの曲はシャッターアイランドで初めて知り
ました。ホラーの為に書き下ろされたかのようですね。


【平岩隆】
オオサカタロウ様ありがとうございます。
之以来人形はどうもおっかなくていけません。
結果的には私個人としては扁桃腺と喉ちんこが切除され
大変よく眠れるようになったのですが・・orz
ペンデレツキさんは「エクソシスト」とか「シャイニン
グ」といったマジ怖映画に
使用されることについて「大変遺憾」だそうでご立腹と
の記事を読んだことがあります。
氏の作品の多くは自然をモチーフにしたものが多く、ま
た戦没者に対する哀悼の意を
こめたものであるそうで、ホラー映画とは失礼千万!と
のことでありますが。
まさにホラー映画の為に書かれている様にしか・・思え
ない・・orz

【ピースマイルド】
ぎゃああ!これが実話だなんて!自分の身に起こったら、
発狂するかもしれません!怖すぎです!
【氷室ルイ】
相変わらずBGMが恐ろしいですwww
やっぱり、人形って恐ろしいものがありますよね。
あのうつろな瞳の中に、どんな念を抱えているのやら…
…。
それにしても、実話とは!
一体どこからどこまでが実話でどこからが脚色なのでし
ょうか?
というか、これが実話だというならこの主人公は平岩さ
作品名:神社寄譚 3 捨て人形 作家名:平岩隆