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ローストターキー

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明らかにされたものばかりで。その序文には”遥か彼方の東方の地で二つの大きな火柱が起ち人々は神をも超える太古のもの
たちを揺り起こす”とか”更なる愚行を繰り返し大地に染みついた目に見えない害毒によって住む土地を追われる”とか予言めい
たものさえ書かれている。そして章立てがなされており”いにしへのもの”に対する奉り方とか、様々に変化しているその周辺の
眷属といったものたちの召喚の仕方などが記されている。
そしてひと際目を引くのが”復活の儀式”についての記述であった。

宇宙の一部にして太古の昔よりこの大地を統べる”存在”の力を借りて、冥界より死者を復活せしめむとする秘術についての記述。
私はその壮大な世界観に魅了され、そして愛しきおばあさんの復活を願った。そして必要な物を着々と揃えた。
我が一族の祖先はロシア交易の傍らで手に入れたこの魔道書を元にあの裏山の大木の下の窪みに石のドームを作り
秘術を行なってきた。その結果莫大な富を得ることとなったが、ある大きな代償を払ったらしい。
そのために亡きおじいさんはこの秘術を封印したのだ。だが、我が一族は女系であるから。おばあさんはその秘術を独自に学んだ。
秘術を使えば何らかの代償が必要となる。それが命であったのか魂であったのか。
おばあさんが使わなかった秘術を、私が使う。
ネット通販というものは便利なもので、世界各地の希少品ですら素早く手にすることが出来る。
儀式に必要な物は全て手に入った。
あとは呪文を完璧に訳せば儀式は行える。

長くて暑い夏が去り楓の葉が赤く色づいた頃、状況は大きく変わった。
父は投機に失敗し大きな借金を作った。
母はやはり商才の無さから結局借金を作り、店をたたむこととなった。
叔母は別の若い男との関係を詰られ新しい恋人から激しい暴力を受け多額の療養費が必要になった。
「あの裏山、売っちまおうか_。」
「でもあの裏山は、あの子のものだから・・。」
「子どものものは親のものでしょ、処分なさいな。」
「そうは簡単にはいかないわ」
「なら・・相続しちゃえば?」
「え?」
「だから・・相続しちゃえばいいじゃない・・」
「・・となれば、あの子にもめいっぱい生命保険かけておこう・・」

私はそんな話を聞いてしまった。

私は計画的に殺されてしまうのか。
刃物で切りかかる?
食事に毒を盛る?
いつかは彼らに殺されてしまう

しんしんと雪の降る夜。
私は裏山の石のドームに向かった。
昼間のうちに必要な物の準備は整えていた。
今夜を待っていたのだ。満月の夜。
蝋燭に照らし出されたドームの中は意外にも風を受けず寒くはなかった。
そして買い揃えた材料を鍋に入れジックリと煮込む。
ツンドラの土に煮汁をかけ、砂漠の砂にもかけた。
三度の屈行を繰り返し大きく手を広げて、心の中で我が身の清浄を宣言する。
アメリカ人ジョーゼフ・カーウィンの手による英訳本の写しとされるアルファベット文をたよりに
”いにしへのもの”の召喚呪文を唱える。

ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう

全能なるいにしへのものたちよ
我が愛しき祖母を冥界より召喚したまえ!
そして願わくば愛しき祖母を復活させたまえ!

いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう、よぐそとほぅと
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう、よぐそとほぅと
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう

いかなる化学反応か土と砂が突然燃え上がったのには驚いた。

ミスカトニック大学の医学生だったハーバート・ウェストによる記述にある手筈通り
その炎の中に祖母の遺骨の灰をペンダントごと投げ入れた。
更に炎は燃え上がりドームの天井を焦がした。

だがそのまま炎は小さくなり消えてしまった。

いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう、よぐそとほぅと
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう、よぐそとほぅと
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう

いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう、よぐそとほぅと
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう、よぐそとほぅと
いぃあぁ、いぃあぁ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう

ドームの暗闇の中、私はひとり取り残された。
所詮、呪文やら魔術やら・・そんなものを信じた自分が馬鹿馬鹿しいほど愚かに思えた。
ブードゥー教の呪術じゃないのだから。ゾンビになっておばあさんが生き返ってどうする?
そもそも彼方じゃ土葬だがこちらは火葬なんだ。
うまくいくわけがないじゃないか!
落胆した気持ちの上に凍えた空気が突き刺さった。
此処にいても仕方がない。外気の冷たさを石の床が伝えているのだから。
私は裏山を降り自宅に戻った。
それから数日間、風邪を引いたようで寝込んだ。
父の心配気な顔が、わざとらしかった。
母の運んでくれる薬を飲むのが怖かった。
叔母の邪険な眼差しに怯えた。

「これって・・いいチャンスなんじゃないか?元々病弱な子だったし。」
「風邪をこじらせて・・よくあるわよね肺炎にかかって、とか・・」
「水風呂にでも入れてしまおうか?」

廊下で話す言葉は筒抜けだ。
日ごとに酷いことを言っている。
「もう二度ほど熱が上がれば、死んでしまうだろ・・」
「なるべく栄養の無いものを食べさせてな・・食べ合わせの良くなさそうな、な。」
「変な薬は使うなよ、検死されたときに面倒だからさ・・」
熱にうなされながら、呻くように。
私は深い眠りについた。

目が覚めると・・・。

コトコトコトコトと鍋から音がする。
クランベリーソースの甘い香りが漂う。
ガーリックバターの強い香りが混じり合う。
トントントントンと包丁がオニオンを刻む音がする。
ジュワーッとオイルが跳ねる音がする。

ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、力の入った肉包丁の音がする。
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、力の入った肉包丁の音がする。
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、力の入った肉包丁の音がする。
トンッ!トンッ!トンッ!トンッ!骨を断ち切る音がする。
トンッ!トンッ!トンッ!トンッ!骨を断ち切る音がする。
トンッ!トンッ!トンッ!トンッ!骨を断ち切る音がする。
肉汁の焦げる音がする。
何とも言えない香ばしい臭いが立ち上る。

子どものころからクリスマスの日の午後はおばあさんがクリスマスディナーを作ってくれた。
不思議と熱は下がり身体も楽になっていた。
父も母も叔母の姿も見えなかった。
キッチンに向かうとあのおばあさん特性のクランベリーソースの香りが立ち込めていた。

いつまでそんな恰好をしているの?
早く着替えていらっしゃい。
作品名:ローストターキー 作家名:平岩隆