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天井裏戦記

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   * * *

 それから数日が経って――。

 木曜2限が終わると、亮太郎たちはいつもの食堂に陣取る。1にパンキョー2は必修。34が無くて5も必修。次の授業までぽっかり穴が空くのでいつしか木曜の午後はいつものメンバーでここにいる。自宅通いの慎平と結奈は休憩時間、小夜は飯時限定で食堂のバイト。なので四人が集まるのは3限が始まってからの昼寝をしたら気持ちいい時間帯。そして亮太郎は、
「亮さん授業行かんの?」
「モチロンじゃろ、出席取らんやつちゃんと選んだんじゃからの」
 慎平は亮太郎のマネージャーかというくらい、相方の授業コマを把握している。34が無くてというのは慎平の思い込みで、きっちり出てないパンキョーが3限に入っている。

 四人が集まってする話題といえばネズミ談義。ネズミ屋敷の住民の動向が他の三人には笑いのネタとしてすっかり定着しつつあった。

「んで、ネズミ捕りは効果は出たの?」
「効果は上がったんじゃけんど、キリがねーんじゃ」
先週のチーズ作戦大失敗とは真逆の報告であるが気分は晴れてない様子。
「キリがない?」
「じゃ。なんぼ捕まえても天井裏の音は止まらへん」

 亮太郎はここ一週間の状況を説明した。ネズミ捕りは仕掛ければスンナリ掛かるようになった。昭和の時代と地震の惨禍をを生き延びた存在そのものがレトロ住宅なので寝てても天井裏から罠に掛かったらガシャンという音が漏れてくるのでよく分かるそうだ。
「チーズをナッツに代えたら置けば大概かかる。これが釣りなら入れ食い状態なんじゃけんど……」
 そこで二人は頭の上で天井裏をイメージした。魚ではなくネズミが入れ食いで獲れたって全然喜ばしい画像ではない。さらに言うとエサはチーズおかきにすればと言う冗談を思い付いたが言える雰囲気でもない。
「はぁ――。どう考えても確保するより繁殖する数の方が多いような気がするんじゃけんど……」
 頬杖から漏れる溜め息が画像を掻き消す。効果はあるのにやるせない。

「まあ、ねずみ算って言葉あるくらいだから、そうかもしれないよね」
「何じゃ?そのねずみ算ってのは」
 小夜の言葉に頭を上げる男二人。必要最小限の勉強しかしない二人にははじめて聞く単語。敵を知るにはと何度言っても実際に行動しないのがこの男であるのはここにいる者は皆知っている。

「要はね、ネズミって繁殖力が強いのよ。1回のお産で数匹、そしてすぐに次世代がお産して、そして次の……」
「気がつきゃネズミだらけって、こと?」
誰が配ったか分からないサークルの部員募集のチラシの裏にかかれた2の2乗、3乗の落書きがいつのまにやら100乗になっている。
「じゃあ、ねずみ講というのは?」
「要は広がりすぎて収拾つかへんってこと」
「これやったらラチ開かへんがな」

 一同が一斉にため息をつくと、周囲のガヤガヤも止まったように感じた。
「なーんじゃ、ネズミ捕りといいネズミ講といい、きゃつらは昔から忌み嫌われる生き物なんやのう」
「そーなんですよ。あっしは人の弱味で飯を食うケチな妖怪でして……」
慎平があの妖怪の真似をしてパーカーのフードをかぶってなりきる。そして今日はそんなたまたまパーカーの色がねずみ色だ。

「というわけで、捕まえるのも必要じゃろうけど、追っ払うことも必要じゃのう」
「確かに……」
「でもどうやって」
今度は一同が一斉に笑いだした。それ以外に方法が思い付かなかったのは誰も口にしなくとも分かった――。
作品名:天井裏戦記 作家名:八馬八朔