天井裏戦記
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「……というわけで、ごめん。連絡が遅れたのはそういうワケよ」
「そうですか、とうとう攻めこんで来ましたか、奴らは」
「それは、一大事、ですね」
学期も中盤に入り、めっきり人が減った昼休みの食堂。授業をまともに受けるのはせいぜい最初の1ヶ月。見切りをつけた学生たちは徒党を組んで交代で出席する者もいれば金でカタを付ける者もいる。もちろん真面目に授業に出る学生もいるが、それは大半の暇人とごくわずかな勤勉な学生と思うのは亮太郎の私見。もちろん亮太郎はそのどちらにも属していない、もし属していたならここの学生は地球の模範となってしまう。
亮太郎は指定席を陣取り真面目に授業を受けてきた慎平と小夜を迎えた。これもチームワーク、すなわち勉強の一種である。もちろんこれも私見。
「やっぱり、退治せんとアカンやろか」
「学生生活の平穏を保つには、必要やろな……」
「うーん、そこが問題じゃて。ワシら第一ネズミをまじまじと見ていないし、どうやって捕まえるのかも分からん」
確かに、三人は育ちはそれぞれであるが、実際にそれを見かける家では育っていない。いきなり捕まえ方について議論したところで元がないので、0に何を掛けても0である。
「まずは、ネズミについて調べてみるってのは、どう?」
沈黙を破ったのは小夜だった。男二人はボケを考えていたのか、まともな意見など思いもつかない。
「ほぉ、確かに敵を討つには適を知るべしやのう」
そう言い終わらないうちに慎平はスマホを取り出して検索を始めた。
「ウイッキー先生、教えてたもれタモーレ」
写し出された画面は有名Web辞典、もちろん検索ワードはネズミ。それぞれが画面に注目し読み出すと、にやけた笑いが徐々に閉口していった。
「ネズミって……」
「けっこうけちょんけちょんに嫌われてる生き物なんやな」
「あまり良い逸話って、ないね。詳しくは調べてないケド」
三人はサイトに出たネズミの説明を読んで、それぞれ違うところに注目した。
まず、亮太郎が注目したのはネズミの語源、
寝盗み → ネズミ
「ね」は「ぬ」に通じるから、
ぬすみ→「ぬ」から「ね」→ネズミ
となったところだった。つまるはネズミ=泥棒ということか。
小夜が注目したのはペスト。
ネズミが病気の媒体となって人間に次々感染し、中世のヨーロッパでは人口の三分の一がペストで命を落としたということろ。
最後に、慎平が注目したのはねずみ男。
あの有名な妖怪漫画のあの男。確かに彼の描写は一言で表現すれば「ずるい人」。――ではなくずるい「妖怪」である。
この他も色々書いてあるが、ある国の幹部が密入国してまで見に行きたいコミカルに踊る世界的に有名なネズミとは真逆で、彼らのことを良く書いてある記事が見当たらない。
「ってことはやたらに近付いたら病気移されるかもよ」
「うーむ、それでは触らぬ何とかか……」
「でも、手を打たないと」
「確かに、これは追っ払わないとアカンようじゃ……」
頬杖をついて深刻になった亮太郎を見て、慎平と小夜はそれこそ他人事で笑っていた――。