天井裏戦記
二人の乏しい創造力で思い付いたのは大学の裏山だった。同じ捨てるならネズミを捕食する動物に食べてもらうのが自然の摂理と適当な提案をするも、ネズミを捕食する動物がどんな生き物かということは知らない。でも、動物なら山におるじゃろうと言うのは田舎育ちではあるが自称良家のボンという亮太郎その男。
「ここまで来たら人のおるところに戻れんじゃろ」
「そやなあ。それまでに何かが食ってくれるか」
二人の話を聞いてかボスネズミは一度カゴの中で跳びはねて自分の存在を示した。
「これは、自然の摂理なんじゃて」
「おうよ。食物連鎖ってやつ」
人間様はカゴの外から上から目線でボスネズミに説明をした。その辺はボスと勝手に決められたのか、腰が座ってて再びおとなしくなった。
「最後に、言っておくことないか?」
「……絶対に生き延びてやるでチュー」
慎平はネズミ色のパーカーのフードをかぶり、ボスネズミの気持ちを代弁したつもりが、ボスネズミは覚悟を決めたのか微動だにしない様子だ。まさにボスネズミ、とは思ったが口にはしなかった。
「じゃあ、放すか」
「それではお別れのナンバーはこれじゃ」
亮太郎はカゴを持ち上げ、蓋に手を掛けた。
「ボスネ~ズミ、みたいに」
「美しくなり~たい」
「写~真には、映らない」
「美しさが、あ~る~か~ら~」
申し合わせる訳でもないのに、二人はワンフレーズごとに歌い、最後にカゴの蓋を開放した。すると放たれたボスネズミはリンダリンダと歌ったかどうかは定かでないが、いや、おそらくうたうはずがないのだが、二人が歌う名曲に合うようにジャンプしながら森の方へ走り去って行った――。
「アディオース」
「再見……、この場合『再見』はアカンな『再見』は」
「さあ、帰って部屋の片付けでもしようか、なあ?」
「マジで?」
そう言って勝手に部屋の片付けを手伝わせられることになっている慎平は疲れた笑みを浮かべて見せた。都合をつけてもらった本命コンパの段取り、これを提示されたら逆らえなかった――。