di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア
散々、小馬鹿にされてきたという思いから、リュイセンは挑発的に声を荒らげた。しかし、《蝿(ムスカ)》は、それをさらりと受け流す。
「そう捉えてくださって構いませんよ。実際、力ではあなたのほうが上でした――私は本来、表立って戦う者ではありません。あなたの土俵で戦うのは、愚かなこと。それだけです」
リュイセンの戸惑いを楽しむかのように、《蝿(ムスカ)》は、ふっと、口元を緩めた。
「私の本分は医者ですよ」
意外な言葉に、リュイセンの声が一瞬、詰まる。だが、すぐに調子を取り戻し、応酬した。
「……随分と血なまぐさい医者がいたもんだな」
「ええ。人体を知り尽くした医者です。人によっては、私のことを暗殺者とも呼びますけどね」
リュイセインが眉を寄せ、そして、今まで黙って様子を窺っていたルイフォンに緊張が走る。
そんな彼らの様子を確認した《蝿(ムスカ)》は、不気味な笑いを口元に乗せ、満足したように踵を返した。そして、そのまま無防備に背中を晒したまま路地を出て行く。追撃を受ける可能性など、まるでないと確信しているかのように――。
「おい……」
待てよ、と言いかけて、リュイセンは口をつぐんだ。相手の言いなりのようで非常に癪に障るが、今、《蝿(ムスカ)》を引き止めることは建設的ではない。
残るは、斑目タオロン――。
作品名:di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア 作家名:NaN