あの日、雨に消えた背 探偵奇談10
「あのじーちゃんが神主?」
社務所にいる小柄な老人が、突き刺すような鋭い眼光をとばしてくる。
「うん。殺し屋とか言われて七五三参りに来た子どもをよく泣かせてるけど、ちゃんと御祈祷できる神主だよ。おまもり買ってく?」
こいつも人の子だったのか、と瑞は妙に安堵する自分に少し驚く。得体が知れない雰囲気があるから、底知れない怖さを感じていたのだ。
「落ち葉集めてシイノミ焼いてたんだ。瑞くんらもどうぞ」
小ぶりなドラム缶の上にフライパンが置き、シイノミを炒っているらしい。子ども達が期待を込めた表情でそれを見つめていた。
「シイノミ懐かしい。子どものときよく食ったよ」
瑞は子どもの頃を思い出す。フライパンの上にあるシイノミは、瑞が知るものより大粒だった。香ばしい匂いが漂ってくる。参拝者や子ども達が、殻を割って食べている。
「あまいな」
「うん、うまい」
殻を破ると、中から真っ白な実が出てくる。濃厚な、栗のような甘味が口のなかに広がった。
「おいしー」
「もっとちょうだい」
「ちょっと冷めてから食えよ。やけどするぞー」
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作品名:あの日、雨に消えた背 探偵奇談10 作家名:ひなた眞白