あの日、雨に消えた背 探偵奇談10
「先輩、あたりにいこ!」
瑞は喜んでそちらへ駆けた。歩いてきたとはいえ、身体はまだまだ冷えている。子どもや年配の参拝者が、ドラム缶に手をかざしていた。
「何なにどうしたのー?瑞くんじゃん!」
その輪の中の人物が、近づいてきた瑞らに気づいて声をあげる。
「颯馬(そうま)?」
子どもや参拝者に囲まれているのは、紺の作務衣姿の颯馬だった。竹ぼうきを手にしている。
「何してるんだ?」
「あれ神末先輩も?こんにちは。何って、掃除?ここうちの神社だから」
うちの神社!?声をはもらせ、瑞と伊吹は目を丸めた。
天谷(あまたに)颯馬は同じ高校の一年生だ。特別進学クラスに所属する、ちょっと他とは毛色の違う生徒である。今日も婦女子を虜にする爽やかな笑みを浮かべていた。会うたびに違う女子とくっついている男だった。
「おまえ神社の子なの!?」
「うん。家はここじゃなくて麓なんだけど。うちが代々神主してるんだよ。今日は部活ないから手伝い。もうすぐ祭りもあるから忙しいんだよね」
このチャラ男は、見た目や言動に反して油断のならない男だった。独自の信念や正義をもち行動しているようで、チャラ男はそれを隠すための演技なのかもしれないと思う。
更に、瑞と伊吹の不可思議な因縁を見抜いている節があり、ことあるごとにそれをほのめかして揺さぶってくるのだった。一言で言えば得体のしれない男なのである。
それにしても神社の息子だとは初耳だった。
作品名:あの日、雨に消えた背 探偵奇談10 作家名:ひなた眞白