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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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あの日、雨に消えた背 探偵奇談10

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颯馬が言った。瑞らの深刻さとはかけ離れた呑気な声で。

「だから、謝らなくていいよ。俺は、神社の子で神様のお使いだけどさ、でも負けちゃだめだって思うよ」

いつもののんびりした口調だが、これは励ましてくれているのだと、瑞にはわかった。意外な場所から背中を押され、戸惑う。そんな瑞に構わず、颯馬は続けるのだった。

「こんな雨降らしてさ、嫌がらせみたいに引き離そうとする運命に、負けたらだめなんだって。だって悔しいじゃん」

そう言うと、濃い影を落とす木々の奥を指さす。

「こっち」

雨の中を歩きだす颯馬の背中を、瑞は伊吹とともに追う。滴る水滴の中を歩くと、草地の開けた場所に辿り着く。紙垂が垂れ下がった、ぽっかりと黒い穴が見える。洞窟だった。中は暗く、ぼんやりと青みがかってみえる。瑞の背の高さよりも低い入り口から、その穴がどこまで続いているかは検討もつかない。

「ここはなんだ?」

瑞は颯馬に問うた。

「天然窟っていうのかな。まあ、洞窟だね。青みがかって見えるのは、天然石のせいだ。神域として立ち入り禁止なんだけど、ここが沓薙の四柱の懐というか、神様たちに一番近い場所とされている」

神様の懐…。

「俺も神事のときくらいしか入ったことはないんだけど、最奥には美しい湧水でできた青い泉があるんだ。その水面は、自分の心を映し出すと言われてる。本心も、醜い本音も、そして隠したい罪も、すべて。鏡のように」

罪…。

「瑞くんはたぶん、一歩洞窟に入っただけで卒倒すると思うよ」
「…なんか害虫みたいな扱いじゃない?俺」

どれだけ神様に嫌われているのだろうか。