あの日、雨に消えた背 探偵奇談10
水鏡の裏側
あたりは雨で煙り、視界があっという間に白くなっている。
「俺のせいで先輩苦しいんだ。ずっと」
雨に濡れて立ち尽くす伊吹を見て、瑞は泣きたい気持ちになった。かつて彼を「振り回した」という自分。瑞の願いのためだけに、何度も生まれ来る。出所のわからぬ罪悪感を抱えて…。
「でも俺、許されなくてもここにいたいです」
伊吹を雨に濡らして、後悔させてきた自分の運命。繰り返し振り回して、いまも冷たい思いをさせて。だけど。
「先輩にどんな理由があっても」
いつか、正される日が来ても。
「いいんだよそれで!」
伊吹がそう吠えて、苦しそうな表情を浮かべている。
「俺だって、黙って背中を見送るなんて二度とごめんだ!」
このひとも悔いているのだ。見送ってしまったことを。
「ねえ、許されない命なんてないよ?」
作品名:あの日、雨に消えた背 探偵奇談10 作家名:ひなた眞白