あの日、雨に消えた背 探偵奇談10
「仕方ないよ、前世で相当あくどかったんじゃない?でも、伊吹先輩なら入れるはずです」
伊吹はじっと洞窟の奥を見つめている。
「神の水面は、隠された罪も、自身すら忘れている思いも映し出す。瑞くんに感じている罪悪感の正体がわかるかもしれません。いつの日か、覚悟ができたら、どうぞ」
雨に打たれながら、伊吹は黙っている。まるで洞窟の中にいる者と、無言で対峙しているかのように、じっと動かずに。
「…雨がひどくなってる。帰ろう」
伊吹は洞窟に背を向けたけれど、瑞にはわかった。
伊吹もまた、あの日と同じにいざなわれている。呼ばれているのだと。
いつかくぐる日が来るのだ。
「冷た~このままだと風邪ひきますね」
「ちょっとおまえんちの神社で雨宿りさせてもらっていいか」
「どーぞどーぞ」
先を行く颯馬と伊吹の背中に、瑞は静かに呟く。
「…死ぬまで先輩を忘れずにいたら、今度は俺の勝ちだ」
終止符を打てるのなら、この時代で。この二人で。
そんな誓いを込めて。
.
作品名:あの日、雨に消えた背 探偵奇談10 作家名:ひなた眞白