隣と彼方 探偵奇談9
「脅威となるのは野球部、サッカー部、バレー部ですが、これらもバトンのハンデが大きいため、うまくいけばうちにも勝算はあるでしょう」
優勝すためには陸上部を倒すしかない、と伊吹が横から付け加える。
「陸上部は間違いなく短距離選手の精鋭でチームを組んできます。インターハイのリレーメンバーをそのまま持ってくることも十分考えられます。アンカーの駒形主将も短距離選手ですし。要注意人物は、一年の天谷。県大会、インターハイでは本選に出場、大舞台を経験している選手ですからね。大本命でしょう」
「つまり陸上部を総合力で上回る速さが必要ということか」
「アンカーの主将対決では陸上部がやっぱ有利よね」
二年生の真剣なまなざしに、一年生は圧倒されて何も言えない。これが部活のプライドというものなのか、と郁は闘志を燃やす先輩たちに圧倒される。
「主将は、どうしてそこまで勝ちにこだわるんですか?」
冷静な声で質問をしたのは瑞だった。郁はぎょっとするが、彼はしらけているわけでも、ちゃちゃを入れている様子でもない。真剣なまなざしだった。
「…俺は、」
伊吹はちょっと顔を伏せ目をそらすと、気恥ずかしそうに答えた。
「俺はうちの部活のメンバーが、どこの部の連中より一番だって思ってるから。それを証明したい」
「…主将」
「主将!!」
「うおおおお!!」
部員たちが立ち上がって雄たけびをあげている。郁もじーんと胸が熱くなるのを感じる。伊吹は弓道部が大好きで、部員一人ひとりのことを大切に思ってくれているのだ。
「了解しました。俺が陸上部を潰します」
主将の言葉は、静かだった瑞にも瞬時に火をつけたようだった。
「では続いて選抜メンバーを選ぶため、短距離走のタイムを計る。一年から名前を呼ばれた者は出てくるように」
こうして各部活動、学祭に向け闘志を高めていった。
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作品名:隣と彼方 探偵奇談9 作家名:ひなた眞白