隣と彼方 探偵奇談9
「というわけで、今日は学祭に向けた特別ミーティングを行う」
翌日の放課後、郁ら弓道部員はグラウンドの隅に集合していた。ジャージ姿で。伊吹は全員の前に立ち、体育祭の部活対抗戦についての話を始める。膝を抱えて聴く部員たちだが、二年生の目がぎらぎらと光っている様子に一年は困惑気味だ。この雰囲気はなんだろう。競争の激しい部内にある、いつもの緊張感とは違ったものだ。
(神末先輩がいつもと違う…!)
いつもは穏やかな伊吹が今日は厳しい表情を浮かべており、語る言葉にも熱がこもっているようだ。郁はどきどきしながら話に耳を傾ける。
「このリレーにおいて重要なのはバトンだ。知っていると思うが、バトンは生徒会が指定したものを使用し、これが部活間のハンデをかなり少なくしている」
どういうことですか、と一年男子、内山くんが質問する。
「うちのバトンは矢だ。これは珠算部のそろばんに並び、他の部活に比べアドバンテージがでかい。なんでかわかるか、内山!」
「は、はいっ…ええと、矢もそろばんも軽いから、です!」
突然ド迫力で質問返しをされ、内山くんの声が裏返った。
「半分正解だ。速く走ることにおいて、腕の振りというのは非常に重要なんだ。矢も、そろばんも、片手で持てるうえ、腕をしっかり振れる。対してサッカー部など各球技の部活動は、ボールを持たなくてはならない。片手に抱えたとしても腕の振りは制限されるわけだ。去年バスケ部は少しでも速く走ろうと、体操着の腹にボールを入れて走ったが惨敗している」
矢は軽いうえ形状もバトンに酷似しているということらしい。
「バトンで最強なのは珠算部だな。そろばんの音で相手選手の集中力を奪い、気を散らすこともできる…強敵だ」
悔しそうに伊吹が呟く。去年それでてこずったらしい。
「ここで、今西による戦力分析だ。頼む」
はい、とメガネ男子今西が立ち上がる。今西は部活の経理や事務も担当している二年生である。
「優勝候補筆頭は陸上部ですが、彼らのバトンはハードルです。これにより、戦力は我々と同等にまで低下することが予想されます」
うんうん、と郁ら一年生は頷く。
作品名:隣と彼方 探偵奇談9 作家名:ひなた眞白