隣と彼方 探偵奇談9
ちょっとイラッとするが、まあそうなんだろう、くやしいけれど。それを見透かしたかのように声は嬉しそうに笑う。
「…じゃあ右の糸は、なんでこんな絡まってんの?」
青い糸はひどいありさまだ。こんがらがってたまになり…。こんなのほどけない。切るしかないんじゃないのか、もう。
――たどり着くまで、困難を極めますよ、という意味だよ
どこかで聴いたことのある軽薄な声は、笑いながら続ける。
――絡まって千切れることもある。違う糸を結びなおしている箇所もある。それがあなたの運命
悲惨じゃないか、と瑞は思う。これが俺の運命だって?複雑で、みっともなくて、先が見えない。
――でも、これだけは信じていいよ
声は、ふいに優しくなった。言い聞かせるような柔らかさをもって。
――その複雑怪奇な糸の先。幾多の困難の先、確かに糸の反対側を、その指に結びつけているひとが、いる
「……」
――あなたの糸のその端を持つひとも、あなたに会うため糸を手繰りながら暗い森を歩いているはず
作品名:隣と彼方 探偵奇談9 作家名:ひなた眞白