隣と彼方 探偵奇談9
「すまるくん、ガンバレエエエ!!」
その女子に負けないくらい、郁は声を張り上げた。ほぼ横並びの二人が、応援席の正面の直線を、ものすごい速さで駆け抜けていく。
「はっや!」
「すごいなあいつ!」
身軽な瑞と、ハードルを抱えている颯馬とではやはりハンデが大きい。瑞がデッドヒートを制して跳びぬけた。
「やった、須丸くん前に出た!」
瑞が、手にしている矢をスムーズに伊吹に手渡すのが見えた。大歓声が沸き起こる。
『アンカーは主将対決です!一位で弓道部主将にバトンが渡りました!』
最後の100メートル。伊吹のわずか後ろを陸上部が迫ってくる。少しずつ縮まっていく距離に、呼吸を忘れるくらい見入る。このまま、このままいけば優勝!
「神末先輩!!」
「ファイトでーす!!」
伊吹はそのまま逃げ切り、弓道部は一位でゴールを果たした。
『優勝は弓道部!!陸上部はわずかに届きませんでした!』
「キャー!!」
「やったー!!」
郁は隣の部員らと抱き合った。
「すげえ勝ったぞ!」
「ウィー!!!」
「やったー!」
グラウンドになだれこんだ部員たちは、主将のもとへ走る。
「主将!」
「やったね!」
「おい胴上げだ!」
伊吹を担ぎ上げ、バンザイバンザイと盛り上がる男子部員らを、郁は胸いっぱいに見つめる。本当に優勝したのだ。伊吹の嬉しそうな笑顔が秋空の下に弾けるのが見える。胴上げには瑞も参加している。みんないっぱいの笑顔で、中に泣いている部員もいた。
作品名:隣と彼方 探偵奇談9 作家名:ひなた眞白