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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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隣と彼方 探偵奇談9

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「辛そうだったけど…いましゃべりながら泣きそうだったじゃん」
「……」
「一之瀬にそんな顔させてるなら、世界で一番かっこいいか?俺なら、ちょっと違うかもって思う」

街灯の下で、郁は自分のローファーを見つめる。瑞の言葉が、じんじんとしみてくる。あたしは好きなひとの前で、こんな辛い顔しかできないの?笑っていたいのに。

「ごめん、勝手にこんなこと言って…」
「…、」
「一之瀬?」

両手で覆った顔の隙間から、嗚咽が漏れる。瑞が慌てて近寄ってきて、背中をさすってくれる。

「ほら泣かせてる。そいつ悪い男だ」
「ごめん…」

泣くつもりなんてなかったのに、なんだか急に悲しくなってきて、郁はしゃくりあげる。瑞が戸惑う気配が伝わってくる。泣きやまなきゃ。でも涙が零れて声が震えて、何も言えない。

「そんな辛いなら、やめられないの?」

重ねて尋ねてくる小さな声。

郁はハンカチで鼻を抑えながら、声を絞り出した。これだけは、伝えなきゃ。このままだと、瑞が悪い男ということになってしまう。郁が苦しいのは郁自身の意気地のなさのせいなのだ。たくさんの女の子たちの恋心を一身に受け止める魅力的な彼への悔しさはあるけれど。そのことで苦しくても、泣きたくなっても、それでも、やめようとは思わない。