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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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隣と彼方 探偵奇談9

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「泣かされても、大好きなの…」

好きと伝えられなくても。いつか他の誰かのものになるときがきても。手の届かない王子様でも。

「そのひとしか、あたし無理…」

瑞の隣で感じる温かさを一度知ってしまえば、広い世界など知らなくてもいい。

「…そっか」

瑞はそれだけ言った。ただ静かに。並んでまた自転車を押す。言葉がなくても、通じ合えたような温かさを感じる。彼は、見守ってくれるのだろう。郁の敵わない恋を。好きだと告げたら、驚くだろうな。郁はそんなことを想像する。彼の優しさを、友情を、裏切ってしまうことになるのかな。こうして気持ちを隠してそばにいることは、誠実な彼に対してフェアじゃないかもしれない。

(でも、それでもいい。卑怯でもずるくても、いい)

友だちなら、こんなふうに温かさを知れる場所にいられる。彼の甘い香りに包まれて。

もう少しだけ。
こうやってそばにいても許される存在でいたい。

いつか、この場所が他の誰かの指定席になる日が来るまで。




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