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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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隣と彼方 探偵奇談9

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冷えた風が吹き、郁は身体を震わせる。夜はいっそう冷え込む。明日から始まる学祭の、他愛のない話をしながら自転車を押して歩く。駅前の交差点、赤信号で止まった郁は、思い切って切り出した。

「さっきの先輩って…」
「え?」
「なんか、用事だったの?」

うわ、なんか嫌な言い方しちゃった。郁は後悔する。これでは、やきもちをやいているのが伝わってしまいそうだ。やきもちをやく権利すら、郁は放棄したのに。

「ああ、なんか…うん」
「…好きって言われた?」

どくんどくんと、心臓が痛いくらいに鳴っている。自分が告白したかのような緊張感。青信号になっても、二人は足をとめたままだった。郁が歩き出そうとしないから、瑞も立ち止まってくれているのだ。

「なんか、付き合ってとか、そういうの」

やっぱり。どう答えたの、と尋ねるのはさすがに憚られたが、瑞が自分から答えてくれた。

「俺いまそういうの考えられないし、よく知らない人だし、断ったけど」

歯切れが悪いのは、彼なりに罪悪感があるからかもしれない。風が吹いた。甘い匂いがする。イチジクの香水。そばにいると、いつも香る瑞の匂い。冷たい空気の中では、そのさりげない香りが、濃く甘く香る気がして、郁は言葉に詰まった。何を言えばいいのかわからなくなる。