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無条件降伏からの歳月

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 農産品の疑惑隠し、カラスの感染死、食品産地のごまかし、賞味期限の改ざん、等々。商人の良心は失われているという非難の声があがっています。どうしてこうなったのでしょうか。
 これ以上に、やるせないのは、親が幼児や児童を虐待し、死に至らしめるという事件が頻発していることです。親が親たりえないとは、その非情と無知には、怒りを超えた衝撃が走っています。彼らをこのようにさせた原因は何だったのでしょうか。人間教育の空白がもたらした結果なのでしょうか。
 この国は、恐ろしく経済至上主義が蔓延していて、人間の価値を考える余裕を無くしているように思われますね。立身出世と金儲けのための教育も大切でしょうが、それ以上に、人間を御互いに大切にする心を磨くように教育することが、いま、最も必要なことではないでしょうか。あまりにも簡単に人を傷つける社会は、平気で戦争をすることにもなりかねないですからね。
 治安のいいことが自慢だったこの国で、衝撃的な事件は、北朝鮮による拉致ですが、日常的にも、ピッキング強盗、行きずり殺人、児童誘拐、放火、集団暴行などが多発し、それも凶悪な手口が増えています。どうして、このような国になったのでしょうか。
 外国人が増えたからという人もいますが、それよりも、日本人の倫理観の退廃が大きな要因になっているのでしょう。学級崩壊、家庭崩壊などの言葉が氾濫したのも記憶に新しいことです。
 一九九一年以降は、この国は、経済失政でガタガタになりました。銀行や会社がつぶれるし、リストラで失業者が増加するし、終身雇用、年功序列で安定していた社会が崩壊しました。これが、社会の箍を緩めてしまったようですね。
 現在は、信じられないような事件が、色々な分野で起きています。官庁や会社の不正経理、裏金づくり、背任、横領、医療ミスの多発、学校では、凶悪犯の発生で、児童や生徒は安心して通学できない状態になっています。
 このような現象は、一時的・突発的なものではなくて、日本人の倫理観が根底から変わっていることの結果ではないでしょうか。
 このような徒花を刈りとって、本当に美しい花を咲かせるためには、土壌の改良から始めねばならないでしょう。そして、品種改良された新しい種苗を植え付けねばならないでしょう。
 倫理退廃のどん底まで突き落とされた現在、あらゆる方法で、戦後日本の足跡を再検証し人の心に起きた変化を再確認し、悪の根治に立ち向かうべきでしょう。あたかも、癌に対する、外科手術、抗がん剤、放射線、免疫療法のように、手段を選ぶ必要があるようです。大切なのは、患者を,誤診や過剰医療で殺さないことでしょうね。
 モラールの退廃を痛感させられることが、枚挙にいとまないほどに発生し、日本はどうなったのかと、心配でなりませんね。嘆くというよりも恐ろしくなりました。日本人の人間力が消え失せた感じです。
 人間力の再興のためには、日本および日本人が現在の心理的な閉塞状態から抜け出すための道を再発見するしかないようですね。その処方箋は一人ひとりが書くしかない。その共通項を纏め上げるのが政治というものでしょう。そういう答えがひとつはあると思います。しかし、一番大切なのは、親の子育てのあり方でしょう。中でも、母親の影響力は大きいと思います。母親が母親らしくならないと子供は育ちません。それを知らない女性が多くなったのです。
 テレビやメジアの影響が大きいので、この方面でお仕事している人には是非、高い倫理観をもとめたいですね。いまどきの子供は物心ついたときからゲーム機で育っています。ゲームのソフトが子供の精神的成長に計り知れない影響を及ぼしていると思いますね。それにテレビ番組がおそろしい感化力を持っているでしょう。大人もそれに影響されています。ヴァーチュアル・リアリティーというのでしょうか、ヴァーチュアルなものが現実に取って代わっているようです。これは避けられない危険ではないでしょうかね。>

 真理はこの手紙を差し出した後で、父・三平が家庭を引っ張ってきた頃の姿を懐かしく思い出していた。自分たち子供を母とともに育て時代には、父が牽引し母が後押しをする荷車のようだった。その荷車に乗っていた兄・平介と自分がそれぞれの家を構えるようになった後、父母は「戻り新婚」のように二人になったのだが、空の荷車を曳く寂しさもあっただろう。その荷車に孫を乗っけてやろうと、時々は、盆・正月を含めて、里帰りしたが、その孫も成長して祖父母には寄り付かなくなった。兄・平介の家族はアメリカ暮らしがながかったので父母とは何処と無く疎遠である。母が亡くなって兄・平介が家族とともに帰国したのだ。その頃から父・三平の異文化体験が家庭内で始まっている。
 真理も二人の子持ちであるが、こちらのほうは両親や祖父母の働く姿を見て育っているためか、家の仕事に協力的である。真理は二人の娘が家業を継いでくれるように幼いときから仕事の躾をしていた。そのおかげで大学生の弥生も高校生の皐月も職人や社員に混じって手伝いをしている。だけど、真理の不安は、現在のご時勢に染まって子供たちもルーズな生き方を選ぶのではないかということだった。真理が父・三平に手紙を送ったのにはそうした思いもこめられていたのである。
 三平から真理に返信が来たのは一月ほどたってからである。返信が遅れた言い訳のように、仕事の調べ物をするために四国に旅行していたと書いてあった。実は亡母の生まれ故郷は四国の徳島であったから、仕事に事寄せて、母の実家を訪ねたのだろうと思った。父もそろそろ家系のことを書き残す気になったのかと想像する。手紙に書かれていたのは家族についての父の思いであった。

<家庭や家族の大切さや楽しみを理解できるような社会が健康な社会だと思う。個人ばかりが蔓延って家庭でも断絶しているような家族は寂しいし憂鬱だ。家族と個人のバランスが上手く着いていると和やかで明るい。
 子供は小三頃までが親や大人になつこいが、それから親離れするようになって、友達を優先する。思春期といわれる年頃が家族にとって最もやりにくい。この年頃には受験も重なって、子供自身が精神的重圧を受けている。このときに、世話を焼きすぎると逆効果、放任すると何をしているかわからないと、親たちは悩むことになる。
 子供の精神的成長に二極分化が現われる。「親好き」と「親嫌い」であったり、「親依存」と「親離れ」になったりと、さまざまである。子は親の鏡と言う言葉があるように、これらの傾向は親次第で生まれている。「親の背を見て子は育つ」というように子は親を無意識に見ている。
 親子孫三代をみていると、その家庭や家族の考え方や行動の共通性も解ってくることがある。その中で大きな影響を及ぼしているのがDNAだろうが、職業の影響も大きい。家系の中で家族が成長している。歌舞伎役者はその典型だろう。家業を継ぐ人々も家系の影響を受けている。個人、家族、家系の繋がりがあって、先祖祭りも営まれるというものだ。個人犯罪の多発はこの繋がりが希薄になっているからではないか。「家」の文化の大切さを思うのは僕だけではないだろう。
 平介と真理の家庭は両極端にあるようだ。リリーやジョージのような育ち方
作品名:無条件降伏からの歳月 作家名:佐武寛