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道化師 Part 3

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亮の胸だと安心できる、ダメだと思う間もなく意識が途切れた。強がりも亮の腕の中では発揮されることはないみたいだ。
気がつくと布団に寝かされていた。枕元で座椅子に凭れ本を読む姿が見えた。
「魁斗さん、俺……」
「ヒロくん、大丈夫?まだ、少し熱があるから横になってるといいよ」
何があったのか記憶が混乱している。
「ヒロくん、怪我したのは覚えている?」
怪我…そうだ襲われたんだった。
体を起こそうとして、腹に痛みが走る。
「こら、動かない。肋骨にはヒビが入ってるし、脇腹は、20針程縫ったんだから大人しくしてなさい。これ以上、亮を心配させるのは俺が許さないよ」
布団に体を戻し
「魁斗さん、すみません。亮さんは?」
「ミユキの側にいるよ」
「俺の怪我、ミユキには?」
「言ってないよ。熱が下がったらミユキに声をかけて欲しい」
「ミユキの様子は?今は会えないですか?」
「ほんとは動けそうなら会って欲しいけどね。そうなるとヒロの怪我ミユキにわかっちゃうでしょ。内緒にしたいとヒロが思っているのなら、もう少し平気な顔が出来るようになっての方が良くないかな」
「様子だけでも教えて欲しい」
躊躇している様子が、不安を掻き立てる。
「あんまり良くないかな。感情が抜け落ちて人形のようだよ」
そんな、今すぐにでも会わなければ。
「魁斗さん、ミユキに会いたい。平気な顔できるから、会わせて」
「まだフラつくようなら諦める事、無理はしない、いいね」
「はい」
魁斗さんの手を借り体を起こす。
上半身裸の体には幾重にも包帯が巻かれていた。
「これを着て、包帯してるの隠せそうだし」
魁斗が持って来たのは亮の生地の厚めのシャツ。少し大きい、やっぱりまだまだ亮さんには、負けてしまうのか。
「ヒロ、何落ち込んでるんだ。よく似合ってるよ」
子供っぽい考えを振り切り、立ち上がる。
「ほら肩に捕まって、あんまり腹筋使わない、縫ったところ裂けるよ」
なんとか立ち上がると、割と辛さはなかった。
歩いてもフラつかない。
「大丈夫そうだ。ミユキはどの部屋に?」
「こっち、龍成の部屋にいるから、今はまだ俺に捕まって」
廊下を歩いて行くと向こうから見知った顔が足速に近づいてくる。
「ヒロさん、大丈夫なのですか?」
田所は魁斗に変わる様に促し、俺の腕を自分の肩にかけた。
「田所さん、大丈夫です。ミユキに合わないといけない気がして」
「そうですか、では、行きましょう。私も会長に用事があります」
ドアをノックし魁斗さんがドアを開けるとソファにぼんやりと座るミユキが見えた。
そっと田所さんの肩から腕を外しミユキの隣に腰掛ける。
「ミユキ、何ぼんやりしてるんだ?俺がいるのに笑ってくれないのか?」
目元にかかっていた前髪を後ろに撫で顔を覗き込む。
「ミユキ、帰ってきたよ。お前の側に、おかえりと言ってくれよ」
微かにミユキの瞳が揺れる。
「ヒロ……」
「そうだよ、どうしたんだ?そんなシケタ面して」
「だって、ヒロがいないから」
「俺はここにいるだろ、お前がいて欲しい時にはいつでもいるだろ」
「うん、でも、兄さんが僕からヒロを取ろうとする。僕のヒロなのに」
「俺は、お前のものだから、他の誰のものにもならないし、いなくなったりしない」
「でも、兄さんはヒロに酷い事をしようとしている、僕が側にいるから」
「俺は、そんなに弱くないだろ。心配するな、大丈夫だから」
「ヒロ、触っていい?」
「俺はお前のだろ、そんなこと聞くな」
おずおずと俺の頬に手を伸ばし
暖かい、生きてる。ヒロと生きて会えたと、ボロボロと泣きながら嬉しそうに笑った。
どんなに不安だったんだろう。
絶対に怪我の事は隠さないといけない。抱き締めたいがバレるのが怖くてそっとミユキの頭を肩に抱き寄せることしかできないでいた。

眠る事も出来ない程の心への衝撃、俺が思うよりミユキの中の兄の存在、恐怖の大きさは計り知れないのかもしれない。
どれだけの仕打ちを一人耐えていたのだろうか、自分が傷つくことに無頓着なのに、俺たちが傷つく事に過剰なまで心を痛める。
泣きながら眠りに落ちたミユキ、その穏やかな寝顔に皆が安堵する。
ベットに寝かせようと亮が抱き上げようとしたミユキの手はしっかりと俺のシャツを握り締めていた。
「ヒロ、シャツを脱げ」
ミユキを抱き上げた亮が、少し拗ねた表情を見せるが、シャツを脱いだ包帯の巻かれた体を見て、今度は辛そうな顔になるのが可笑しくて、思わず餓鬼みたいだなと呟いていた。
亮が戻って来るのを待つ間にそれまで様子を部屋の隅で見ていた田所が、龍成の側に行き何か耳打ちしている。
「ヒロ、学校へは田所が車で送り迎えをする。文句は無しだ」
「駄目だ、田所さんは龍成の片腕だろ。俺たちの世話などさせられない」
「ヒロさん、私が申し出ました。気になさらないでください。送り迎えだけですが、若い人達と一緒に居られるのは楽しみなのですよ」
「でも……」
「文句は無しだと言っただろ。亮ばかり頼られると面白くない。俺も頼られたいのがいけないか?」
「龍成さん、そんな言い方は狡くないか!」
拗ねた顔をしているとサクヤさんが
「ヒロ、私には頼ってくれるよね。でも、怪我をする前に頼ってくれるのが一番だよ」
俺が怪我をしたことで龍也と一海が落ち込んで大変だったと溜息を零し、もう無茶は駄目だと念を押される。
「龍也と一海は?」
一人本を読み耽っていた魁斗さんが
「龍也も一海も厨房、お腹空いたな。ちょっと覗いてくる」
きっと俺が無茶をしないか側にいてくれたのだろう。約束を守った俺にいい子だと言わんばかりに頭を撫ぜて出て行く。さり気ない優しさだよな。きっと亮もそんな魁斗さんに癒されているんだろうな。
「ヒロ、魁斗からは学校に行く許可は出たか?下手に休むとミユキに悟られるだろうし」
どうするかと龍成がサクヤさんを見る。
「明日一日だけなら休むぐらいなんとかなるだろう。後は傷が開かない様にサポーターとかどうか後で魁斗と相談しよう」
そんなに深く切られていたとは予想より手練れなのかもしれない相手に、少し興味が湧く。
「ヒロ、何を考えている?やけに楽しそうな顔だな」
武闘派の龍成には強い者への闘争心みたいな、ワクワクする感情がわかるみたいだ。
「何も」と言いながらも、俺を襲った奴らにまた会うことがあったら、今度はドジは踏まない。と不敵な笑みさえ浮かべていた。
龍也が食事を何処に運ぶのか聞きに来て俺を見つけ泣きそうな顔で後ろから腕を回され抱きつかれる。
「亮さんの前だけで気を抜きやがって、俺の前でも倒れてみろ」
やなこったと軽い言葉で返すが、肩に顔を埋めたままグスグスと鼻を鳴らしている。
「龍也、メニューは腹が減った」
やっと顔を上げた顔は目が腫れて酷い。
「肉」
ぶっきらぼうにそれだけ言って逃げて行った。
龍也が逃げた後には、子供っぽさに笑いが止まらず痛みに顔を顰めながらも笑っていた。
作品名:道化師 Part 3 作家名:友紀