道化師 Part 3
ミユキの事が気になり、周りの事にあまり注意をしていなかった。急ぐ俺のすぐ横をバイクがスピードを落とし通り過ぎて行く。その時、激しい衝撃と痛みが走った。何が起こったのかわからない。膝をつき振り返るとさっき通り過ぎた二人乗りのバイクがUターンして戻ってきた。手には鉄バット。あれで殴られたとわかったが、くらりとするが辛うじて振り下ろされたバットを避けるが背中に塀が当たり、後ろへの逃げ道を失う。
バイクの行った反対側に走るが、前からもう一台のバイクが突っ込んでくる。バットは持っていないが、キラリと何かが光った。向かってくるバイクに走り、すれ違い際回し蹴りを繰り出す。バイクは横転して自然を滑り壁に激突して止まった。放り出され無様に転がる男たちは足を引きずり走って逃げて行った。バットを持った男の乗せたバイクも向きを変え走り去った。
「くそっ、しくじったか」
回し蹴りを繰り出す前に飛び出してきたナイフを避けきれず、深々と脇腹に刺さったままのナイフの周りに、シミを広げていた。
塀を背に道にへたり込み、亮の怒った顔とミユキの心配する顔が浮かび
『参ったなぁ』
と声もなく天を仰ぎ、サクヤさんに連絡した。
龍也と一海を乗せたサクヤさんの車が俺を見つけ止まった。
降りて来たのは知らない男、いや、どこかで会った様な気もするが、出血のせいか朦朧とした頭では思い出せそうになかった。
男は、俺の側に膝をつくと
「大丈夫ですか?」と傷の具合を確認し俺を抱き上げ後ろ座席に座らせた。
「ヒロ、このまま龍成の所に行きます。魁斗が待ってるから、もう少し我慢できるか?」
「サクヤさん、すいません。亮さんは…」
「覚悟した方がいいかもね。かなり、怒ってたから」
怖え~なと苦笑いする。
「ヒロ、無茶するなよ。いつも一人でなんでも片付けようとする。親友だろ?」
泣きそうな顔で龍也は馬鹿野郎と小さく呟く。
「龍也さん、大丈夫ですよ。脇腹ですから、出血程酷くはないです」
俺を抱き上げた男が龍也に傷の具合を告げ安心させようと振り返り笑みを見せた。
「すいません、服汚さなかったですか?俺、どっかで会った気がするんだけど…」
思い出せないと男に詫びると
「ヒロさん、記憶力いいですね。一度、車の窓越しに会っただけですよ」
車の窓越し…あゝ、龍成の護衛についていた人だ。
「龍成の護衛についていた時ですよね」
「思い出して頂けて光栄ですよ。若頭の田所と言います。会長の秘書みたいな事をしていますので、何でも言ってください」
龍成の秘書をする人なら、相当切れる人なのだろうと、そんな人にまで迷惑をかけてしまっている自分が情けない。
「迷惑をかけてしまいすみません。自分を過信してました、情けない」
「ヒロさん、それが解っているのでしたら、情けなくないですよ。会長が気にいるわけですね」
そんな事ないですと、凄い人に言われると恥ずかしくボソボソと呟き、恥ずかしさをごまかす様に話を変える。
「あの田所さんは、ミユキには会いましたか?」
「いえ、まだお会いしていないです。亮さんたちが来る前にサクヤさんと出ましたので。大丈夫ですよ。会長や亮さんがいてくれます」
「はい、そうですね」
田所さんやサクヤさんが話しかけてくれたお陰で意識を飛ばす事なく龍成の屋敷に着いた。
「ヒロさん、歩けますか?」
「大丈夫です。龍也、肩を貸してくれ」
龍也に肩を借り、車から降り玄関に向かうと仁王立ちする亮がいた。これはかなりヤバイ気がしてきて逃げ出したいと足が止まり、後退りした。
「ヒロ、自業自得だ、しっかり怒られろ」
龍也は、諦めろと囁き、俺は亮さんの前に引き立てられた。
ごめんと謝る前に平手打ちが飛んできた。痛みを感じるよりも亮の胸に抱きしめられ、ドキドキと早い鼓動に、頭の上で心配かけるなと微かに震えた声が聞こえた。
作品名:道化師 Part 3 作家名:友紀