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道化師 Part 3

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久しぶりに皆が集まり食事をする。ミユキは眠り続けているが、あまりにも穏やかな寝顔に目覚めないのではと不安さえ感じた。その日は龍成の屋敷に泊めて貰い、田所さんが送迎する事を約束させられた。



微かに誰かの声が聞こえ、夢を見ていた筈なのに、霞がかかったようにぼんやりと消えていく。
「おはようございます」
今度ははっきりと聞こえた声に挨拶を返し、体を起こす。
「食堂の方に食事の用意もできてます」
「わかりました、直ぐに行きます」
きっとあの声は昨日料理をしてくれていた、確か裕二と言っていた若い衆だろう。
食堂に顔を出すなり龍也に遅いと文句を言われ、亮にはムッスリと不機嫌な顔で迎えられた。
「ヒロ、おはよう。お寝坊さんしちゃったね」
ミユキの柔らかい笑みに迎えられ俺は心底好きなんだと思った。
椅子に腰掛けてる後ろから椅子ごと抱きしめ肩に顔を埋め、ミユキの匂い暖かさを堪能していた。
「ヒロ、くすぐったいよ」
肩を竦めるが止められない。
「いい加減にしろ、早く飯を食え」
首根っこを亮に捕まれミユキから剥がされる。
「なんだよ、昨日一人寝だったんだからいいだろ、これぐらい」
皆んなは呆れた顔で笑うが、ミユキは真っ赤な顔でアタフタと俺にご飯を用意しようと席をたつ。
「ヒロ、早くご飯食べなきゃ遅れちゃうよ」
キッチンに裕二がいてミユキに俺がしますよと笑いかけてる。
ミユキを追いかけた俺は腕の中に抱え込む。
「取りに来たから持って行くよ。ありがとう、えっと裕二さんで良かったかな?」
ミユキに笑いかける裕二に嫉妬メラメラの引きつった笑みを返すが、裕二は
そんな俺にも笑みを浮かべる。
「ヒロさん、そんな表情も素敵ですね。俺は、可愛いミユキさんより細マッチョのヒロさんが好みなんで、如何です?」
思わず後退りした俺の腰にミユキが抱き着く。
「駄目、絶対駄目」
胸に顔を埋め必死にしがみついている。
裕二がもう堪らんとお腹を抱え笑う。
「お前ら何をやっているんだ。早くしないと田所が切れるぞ」
龍成の声に裕二の笑いがピタと止まり、蒼ざめて行く。
「ヤバイ、田所さん切れたらヤバイ。ヒロさん、飯何にします?」
あまりの慌てっぷりに俺もつられ
「あぁ、そこのオムライスでいいよ」
誰かの為に何点か用意されていた料理なんだろう。
「早く食べてください。」
スプーンとオムライスの皿を押し付ける。
「田所さん、切れたらそんなにヤバイのか?」
「そんなのまた今度で早く持って行って食べてくださいよ」
半泣き状態である。
「ここで食べるから聞かせて」
腰にミユキがしがみついたまま、俺はオムライスをせっせと食べ始める。あんまり好きでないプチトマトをミユキの前に差し出すと満面の笑みを浮かべパクリと食べてくれる。
ミユキが口を動かしている間に俺はオムライスを食べ終わった。裕二が手元のプチトマトをミユキの前に差し出すと、口を開けかけたが、やめてしまった。
「あれ、食べないんですか?」
俺は裕二の手のひらからトマトを取り上げミユキの開けた口に放り込む。
「そんなのいいから、教えてよ」
ヒロさんでないと食べてくれないんですねと、ちょっと肩を落としてる。でも、田所のことを思い出し、
「食べ終わったなら、早く行ってください。雷はごめんです」
あぁ恐ろしやと肩をすくめ
「いつか怒らせてみたらわかりますよ」
と、自分はごめんですと厨房に行ってしまった。

龍成にも早く行けと急き立てられ玄関を出た。
「皆さん、お待ちしておりました。早く乗って下さい」
黒の大きな車の横で立って待っていた田所に急かされる。
「おはようございます。よろしくお願いします」
乗り込んだ車の中でやっと落ち着いて挨拶ができた。
「おはようございます。こちこそよろしくお願いしますね。明日からはもう少し早くお願いいたします」
はいと素直に返事しながらも龍也は俺が遅いからだと文句を言ってる。
そんな俺たちの様子にため息をつく田所は運転手を紹介する。
「今日の運転手は小林です。虐めないであげてくださいね」
「よろしくお願いします」
「小林さん、歳を聞いても良いですか?」
一海がにこやかに話しかける。
「歳は28になります」
若く見えるよねと一海と美幸がはしゃいでる。
「明日も小林さんが運転手?」
「明日も多分私です。お手柔らかにお願いします」
「田所さんってキレるととんでもなく怖いってホントですか?」
小林は流石に本人が横にいるので返事に困ってしまう。
「小林、正直に言えばいいですよ」
はいと言ったものの言葉がすんなり出てこない。
「小林さん、なんだかわかった気がします」
「ヒロさん、それは私が怖いとわかったって事ですか?」
「裕二さんも蒼ざめてましたし、小林さんも引きつってますよ。田所さん、普段はきっと優しいんでしょうね」
ありがとうございますと礼を言うが、あんまり嬉しくなさそうな顔ではある。
そろそろ学校近くまで来たところで田所が前を向いたまま
「裏門の方に着けます。帰りもそちらに参ります。教室で待っていてください。いいですね」
最後の一言はかなり、怖かった。

作品名:道化師 Part 3 作家名:友紀