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道化師 Part 3

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12


五人の共同生活が始まり、俺たちはもうすぐ高校三年を迎えようとしていた。
朝は顔を洗うのも、トイレに行くのにも、騒ぎが起こり、亮の怒鳴り声が響き渡る日もあったりと、賑やかで楽しい日々を過ごしていた。外に出る時は緊張していた俺たちも、あまりにも何も起こらないと、単独で動く日が増えていた。龍也は今まで家でサックスの練習をしていたのができず、そのままスタジオに向かう日も増え、俺は、バイトに向かうにもミユキと一海と同伴出勤をしたりしていた。たまに亮がため息混じりに
「魁斗の所に行って来る」
と逃げ出す日も。
それでも、楽しい日々が続いていた。
久しぶりのバイト休みの日曜
「ヒロ、映画でも観に行こうよ」
今日は、龍也と一海は二人で出かけ、亮はソファで昼寝中。
「何か観たいのあるのか?」
「昨日公開になったサスペンス、観たいかな」
「映画館に行くの久しぶりだな、3時からの上映だから、昼飯を外で食べるか?」
映画情報を調べ、出かける準備をしてると
「何処かに出かけるのか?」
目を覚ました亮が欠伸をしながら出かける前に珈琲頼むと言われ支度の済んだ俺はキッチンに向かった。
「どれにする?」
「マンデリン」
「了解」
「亮さん、ソファだと疲れが取れないよ。もう少しベットで寝たほうがいいよ」
支度を済ませ出てきたミユキがだるそうにしてる亮を心配そうに見ている。
「ミユキ、ありがとう。タモツに調律頼んでるから、店に行かないと。お前らはどこに行くんだ?」
「食事して映画でも見ようかなって」
珈琲を亮の前に置き、
「亮さん夕飯はどうする?」
「店で食べるから、二人で食べてきていいぞ」
「どうする?映画の後考えようか?」
俺たちは行ってきますと部屋を出て駅に向かった。
「電車に乗るの、久しぶりかも」
ホームで電車を待つミユキが少し不安そうにしている。
「電車は苦手か?」
「うん、空いてる時はいいけど」
何かあったのかなと、まさか痴漢とかじゃないよな、と考えていたら
「ヒロ、顔が怖い。何、怒ってるの?僕、気に障ること言った?」
「ごめん、ミユキは何も悪くないよ。いや、電車が苦手って何か嫌な事があったのかなと思ってただけなんだ」
「ヒロ、変な事考えてた?痴漢された事ないからね」
僕は男だよと拗ねてるのも可愛い。
電車が来るなとミユキから視線を外した時、アッとミユキの声に振り向く俺の目に線路の方に傾くミユキが見え慌てて腕を掴み引き寄せていた。
腕の中のミユキは、ガタガタと震えていた。

もう何もおこらないのではと油断していた。
「ミユキ大丈夫か?今日は帰ろうな」
ミユキの肩を抱き、駅を出て家に歩き出す。
コンビニの外に小さなベンチと灰皿、誰もいない喫煙所。
「ミユキ、ベンチで少し休もう。俺、亮さんに連絡しておかないと」
ベンチに座る膝に置かれた手はまだ震えていた。
呼び出し音が数回で亮の声が聞こえた。
『もしもし、ヒロか?どうした?』
「亮さん、まだ家にいる?」
『出ようとしていたとこだ』
「ミユキがホームから落ちそうになった。誰かに故意に押されたみたいなんだ」
『わかった、今どこだ?』
「駅の側のコンビニ」
『すぐ行く』
電話を切り、ミユキの震える手を握りしめる。
「亮さんがすぐ来るからな」
誰がミユキの背中を押したんだ?俺が一瞬目を離した隙に、ずっと側で機会を狙っていたのか?今も近くに潜んでいるのかもしれない。
緊張した体がやめようとしていたニコチンを欲しがる。
ごめんとミユキに謝りタバコに火をつける。久しぶりで眩暈がする。
亮の車が駐車場に滑り込んできた。
ミユキを抱え車に乗り込むと直ぐに車は動き出した。
「ヒロ、何があったんだ?顔は見たのか?」
「俺にもよくわからない、気がついた時にはミユキの体が線路の方に倒れて行ってたんだから」
「クソ、誰だ」
珍しく亮が怒りの声を吐き捨てる。
店に着くと、もう店は開いていて、中でタモツさんが調律を始めていた。
亮だけじゃなく俺とミユキが一緒なのにびっくりしたが、俺の腕の中で真っ青な顔色のミユキに気づき駆け寄ってきた。
「どうしたの?ミユキ君、真っ青じゃないか。何かあったのか?」
亮がちよっと待ってくれと手で制し
カウンターの中に入り冷たい水を入れてきた。ミユキを椅子に座らせ亮が入れてきた水を手に握らせた。
「水を少し飲んで。もう大丈夫だからな」
頷きコップに口をつけ水を飲むミユキの背中をさすってやる。
水を飲み、深呼吸を繰り返し落ち着こうとするミユキが痛々しい。
「少しは落ち着いたか?」
「はい、大丈夫」
まだ少し震えているのに笑顔を見せるミユキに、タモツさんが手を握り
「無理して笑うな、まだ震えてるのに大丈夫じゃないだろ?甘えていいんだからな」
タモツさんの優しい言葉にやっと、ミユキの目から涙が溢れ、俺の胸に縋り泣く。
お互いが大切な人を失う恐怖に背中に回る腕の力を強めていた。家族を一度に無くしてる俺の方が恐怖を強く感じてるとミユキは感じたのか背中に回されていた手が俺の背中を撫でてくれる。
少し腕の力を緩めると
顔を上げたミユキが濡れた瞳で俺を真っ直ぐ見つめ、
「ヒロ、大丈夫だからね。僕はヒロを一人にしないよ」
「そうだな、ずっと一緒だよな」
怖い思いをしたミユキなのに、自分の中の恐怖に負けそうになる情けない俺のずっと側にいると言ってくれる。離したくない、必ず守ってやりたい。
「亮さん、タモツさん、俺は何をすればいい?どうすれば守ってやれる?」
亮は、まだ大人の庇護を受けてもいい年の二人が、その大人に何故こんな理不尽な事をされなければいけないのか、腹立たしくなる。
「外に出ないなんて無理なのはわかってるが、控えた方がいいな。その間に、俺たちが動く」
「龍也や一海は大丈夫だろうか?」
「サクヤには、連絡してあるから何かあったら電話が入るだろう。今日は、俺と一緒にいろ。さぁ、飯でも作るか、簡単な物しかできないぞ」
「亮さん、俺たちはが作るよ。何かしてる方が落ち着くから。いいだろ?」
「そうだな、タモツは、食べてきたのか?」
「食べてないから四人前ね」と言って仕事に戻った。
ミユキに指示を出しながら、料理をするうち少しだが笑みを浮かべるようになっていた。
二人で居られるだけでいいと思うのに何故邪魔をするんだ。
ミユキの兄も俺たちの事、邪魔をするなと思っているのだろう。だが、ミユキは俺を選んだんだ、兄だろうが渡したくない。ミユキも俺も僅かな幸せを掴んでもいいはず……。


亮の車で家に帰ってきた。部屋に龍也と一海がいるのを見たミユキは、駆け寄り一海を抱き締めていた。涙が溢れそうなのを我慢する姿に事情を聞いていた龍也は、辛そうに黙って見ていた。
びっくりした一海だが、なんとなくわかるのかミユキの背中をあやすように背中をトントンと叩いている。
龍也に声をかけ、そっとリビングから離れた廊下に出る。
「龍也、どこまで聞いてるんだ。そっちは何もなかったか?」
作品名:道化師 Part 3 作家名:友紀