忘れじの夕映え 探偵奇談8
はっきりと気持ちを自覚した今、誰かに聞いてほしくてたまらなかった。相手が超絶モテ男なので大っぴらにはしたくないが、親友になら。以前弓道部の主将だった宮川に恋をしていたころ、応援してくれていた美波には伝えたい。
部活が終わり、親友の美波にそれを伝えると。
「え、知ってたよ」
「内緒にしててゴメンネ…って、え?」
「だいぶ前からそうだと思ってたもん」
意外なことを言われ、郁は手にしていたドーナツを落としそうになる。部活のあと、甘いものを欲したくなるのはどうにかならないものだろうか。と思いつつ、誘惑に勝てない今日この頃である。ドーナツ屋の席で向かい合った美波は、驚くことなく涼しい顔で答えたのだった。
「い、いつくらいから?!」
「えー、夏の初めくらい?」
「そのときあたしまだ、宮川先輩にキャースカ言ってたじゃん!」
「うん。でも須丸の話めっちゃしてたし、意識してんだなーって」
「…覚えてない」
あのころから、もう気持ちが瑞のほうへ傾いていたというのか?無自覚に?
「なんにしてもさ、自覚してくれてよかったよ。まあ頑張んなよ」
美波がそう言って笑う。
「頑張るって…あんな学校の王子様とあたしが、付き合えるなんて思ってないよ」
「じゃあなに、今のままでいいってこと?」
「うん…」
友だちとしてなら、そばにいられる。部活の仲間として一緒にいられる。だけど告白して断られて気まずくなったら、もういまみたいに笑いあえる関係ではなくなってしまうだろう。
作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白