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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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忘れじの夕映え 探偵奇談8

INDEX|35ページ/43ページ|

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郁は再びがっくりとうなだれ、意識を失ってしまった。

「聞こえる…」

青葉が呟く。瑞にも聞こえる。いつの間にかあたり一面夕焼けにそまり、どこからかリコーダーの音色が聴こえてくる。

「これ…あたしがあっくんに教えた曲だ…」

その調べは、優しくせつなく、稚拙でたどたどしかった。聴いたことのあるメロディだ。これは、確か。

「マイ・ボニー…?」

夕日がまもとに目に飛び込んでくる。目を眇めた一瞬に、瑞はいつかの思い出に入り込んでいた。
向こうの木の下。夕映えの中に座る、幼い青葉と、そして少年が見える。


――青葉ちゃん、僕のこと、忘れてね


あつしの静かな声が、風にのって届く。もう消えてしまった過去を、瑞は見ている。


――みんなの中から消えてしまえば…会えなくても寂しくないから…


少年の言葉に、瑞は胸がつぶれるようなせつなさを覚える。
彼がどんな心境でそう零したのかを、郁の言葉を通して知ってしまったから。

彼は自分を縛る運命を悟り、自ら宝物を手放そうとしているのだ。
その覚悟じみた強い悲しみが伝わったのか、青葉は何も聞き返そうとしなかった。


――ごめんね、青葉ちゃん


幼い青葉は、泣き出しそうな表情で、その言葉を聞いていたがやがて。


――あっくんがそうしてほしいって言うなら、忘れる


そう言った。


――だからあっくんも、あたしのことちゃんと忘れて


青葉は震える声で言った。