忘れじの夕映え 探偵奇談8
「あたしのことは全部忘れてほしいって、約束、した」
なんだって…?
「もう会えなくなるから、思い出せなくなるから、もう忘れてほしいって。みんなの記憶に残ったら、大人になれずに死んだあたしは、寂しいままだから」
青葉が言葉を失って虚脱している。この約束を、当時の青葉は受け入れがたかったのかもしれない。だから、忘れていたのだろうか。
瑞は郁に問いかける。約束を守れなかったのは、青葉ではなく、彼のほうだったのだ。
「でも、忘れてほしくなかったんだろ?」
「…いやなの、」
「覚えていてほしかったんだろ?」
「一人ぼっちはいや…」
泣き声をあげる郁を抱き留め、瑞は青葉を振り返った。
「…思い出したか?」
青葉は、涙でぬれた顔を向け、静かに頷いた。
「…うん」
作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白