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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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忘れじの夕映え 探偵奇談8

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突然、郁が草の上に倒れた。糸が切れるようにして。

「郁ちゃん!」
「一之瀬!」

がっくりとうなだれた郁を支える。彼女は瑞の腕をなんとか掴んで膝をついた。手が冷たい。

「大丈夫か?」

どうしたというのだろう。青葉とともに、瑞は郁の肩をゆすった。

「忘れ、られるのが、こわいの」

俯いて、髪に顔を隠したままの郁から、震える声が届く。囁くように小さな声。

「おぼえて、いて、ほしいの。ウソ、ついたの」
「…一之瀬?」

泣いている。突然のことに、青葉も言葉を失っているようだ。瑞は郁の顔に耳を近づけ、その震える声を受け止める。

「あたし、は、もう大人に、なれないから」

泣き声は続く。

「あたしには、あのひの、おもいでが、すべてだから」

その言葉は、郁の口を借りた、別の誰かの言葉。瑞がそう確信したのは、青葉が郁に向けてこうつぶやいたからだ。

「あっくん、なの…?」

あつし?
彼の思考が、郁に移った?
戸惑う瑞の手を握り、ゆっくりと顔をあげる郁。苦しそうな表情をし、泣いている。須丸くん、とか細い声が瑞を呼ぶ。

「しっかりしろ」
「…あたし、どうしよう須丸くん、悲しくて、寂しい…なんか変なの…」

憑依されているのかもしれない。

「大丈夫、」

瑞は自身が冷静さを失わないよう、努めて静かな声で郁に話しかけた。