忘れじの夕映え 探偵奇談8
……
「…あれ?」
郁は空を仰ぐ。
「どうした、一之瀬」
「なにか、聴こえる…」
風の音にのって、何か、高い音。音は高さを変えて、まるでメロディのように。
「…リコーダー?」
耳を澄ませる。消えそうなメロディ。
「俺には聞こえない」
「あたしも…」
瑞と青葉が戸惑ったように呟く。しかし郁の耳には、途切れがちだが確実に、その響きが届いていた。
そして。
――忘れて
耳元で、男の子の囁き。それを聞いた瞬間、郁は意識がふわっと遠ざかるのを感じた。
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作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白