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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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忘れじの夕映え 探偵奇談8

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土曜日の午後。郁は、瑞と青葉と一緒に地元の駅に来ていた。部活の午前練習後、軽い昼食をとってからやってきていた。

「ごめんね、郁ちゃん。つきあわせて」
「いいけど…なにゆえあたしをご指名で?」
「だってあたしと須丸二人になると、郁ちゃん気になるんでしょ?」
「!!!??」
「手ごわそうなの好きになっちゃったんだねえ。ガンバレ!」
「シーッ!瀬戸ちゃんシーッ!」

瑞から事情は聴いている。初恋のひとの秘密を、そして彼が青葉に何を訴えたかったのか。それの答えを求め、三人は電車に乗った。都会へ向かう在来線。三十分ほど経つと、電車は山に囲まれた緑豊かな無人駅に辿り着いた。

「紅葉が始まってるな」

レトロな佇まいの無人駅には誰の姿もない。国道沿いを歩いていくと、集落が見えてきた。集落の中心を走る道を歩き、かつての遊び場を目指す。畑仕事をする老夫婦。さびれた公園には子どもの姿はない。聞けば少子化と過疎化がすすみ、青葉らの母校は昨年廃校になったのだという。

秋風の夕暮れ。三人は静かな村の中を歩き、やがて村はずれの例の石段の下までやってきた。長いその石段には草が生え、もう長年人の出入りがないことを示していた。

忘れられた場所。そんな言葉がよぎり、郁はなんだかせつなくなる。石段を登るとそこには。

「広い…」

学校のグラウンドほどの広さがある。かつて旧制小学校があったというその跡地には、いまはススキが揺れてただ静かに風が流れているだけだった。なんという非日常な風景だろう。郁はしばし、あっけにとられる。高い空、ススキ、木々の囁き。時代に取り残されたような、かつての子ども達の遊び場。山に囲まれたその場所は、時間が止まっているような感慨を抱かせる。

「懐かしい。あの頃のまんまだ…」

青葉は、詰まりそうな声でそう零した。かつては子ども達の声で賑わっていたこの場所に、青葉はしばし沈黙して佇んだ。昔の光景を見出すようにして。その背中を、郁はじっと眺めた。失われた思い出と対峙し、彼女はどんなふうに感じているのだろうか。