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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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忘れじの夕映え 探偵奇談8

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風と旋律



夢でまた会えることを期待しながら、だけど心のどこかでほんの少し怖いと思いながら、青葉は寝室の電気を落とした。部活の疲れがあるのに、眠気はなかなかやってこない。

(約束…)

あつしのことを、脳裏に思い浮かべる。言葉、仕草、笑った顔、浮かんでは消えていく記憶が、少しずつ擦り減って変容していくることを、青葉は自覚している。

人間は忘れ乍ら生きていくのだ。大切だった時間も、ひとも、経験も、それに出会った瞬間が一番輝きを放っている。思い出は美しいけれどせつない。もう二度と、同じ時間や感情は戻ってこないのだから。

小学校は本当に楽しかった。毎日笑っていたと思う。苦痛なことは何もなかったと思う。先生のことも友だちのことも好きだったし、自分はたぶんすごく幸せな子どもだったのだと思う。

高校生になったいまだってそれなりに楽しいけれど、現実というものを目の当たりにすることが多く、あのころよりは確実に生きづらくなっている。楽しければ笑って、理不尽には怒って。それができた子ども時代の、なんと幸福だったことか。

そんなことを考えているうちに、静かなに眠気が寄り添ってくる。四肢から力が抜けていく。

(約束…そう、そういえば…あっくん言ってたなあ)

覚えていたいな、青葉ちゃんのこと。

そのあと。何か。思い出せそうなのに、眠気に抗えない。
あのススキ野原で。二人きりの夕焼けの中で。
あのときにはもう、死んでいたかもしれないあつし。

なにを伝えたかったのだろう。なにを、青葉に託したのだろう。

あの場所に行けば思い出せるだろうか。
ふしぎなものを。消えた記憶を視ることのできる、瑞を伴っていけば。




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