忘れじの夕映え 探偵奇談8
まただ。今日も沈んでいる。
(…デジャビュ?)
部活後、伊吹はまたしても暗い更衣室で膝を抱えてぼんやりとしている瑞を見つけた。先日、クラスメイトの不可思議な思い出と記憶について頭を悩ませていた彼だが、今日も覇気がない。珍しく射にも集中が見られなかったから、よほど気に病んでいるらしい。
「今日はどうした。例の瀬戸さんか?」
隣に座って話を聞いてやることにする。窓の外はすっかり暗い。虫の鳴き声が聞こえてくる。
膝を抱えたままで、瑞は小さな声で話し出した。
「…もう失敗できないって、」
「は?」
「…これがラストチャンスなんだ」
ぶつぶつと、まるで伊吹の言葉など耳に届いていないかのように、瑞は意味のわからないことを話し続ける。
「おいおい、何の話だよ」
「…これでうまくできなかったら、もう先輩に会えないよ、二度と。何をどうしたらいいかわかんないのに、思い出すまでただ待ってるなんて、もうできない…」
そう言って膝に顔をうずめてしまうのだった。どうしたというのだろう。
「失敗できない、ラストチャンス?それは……おまえの、その…生まれ変わりの話か…?」
うん、とくぐもった声で瑞が認める。肩が震えていて、子どものようだ。
「また、妙な夢でも見たのか?」
「…颯馬が、言うんだ」
「…颯馬?」
「このままじゃまた同じことを繰り返すだけだ。どうしたら回避できる。どうしたらいいんだ。もう二度と後悔したくないもう二度と」
落ち着けよ、と恐慌をきたしているらしい瑞の肩を叩くが、彼は震えるばかりだ。両手で顔を覆ってわけのわからないことを口走っている。だめだ、目を覚まさせないと。
「俺の話聞けって!!」
「ウガッ!!」
胸倉を掴んで渾身の頭突きをくらわす。額を押さえて、呻く瑞の顔を正面から見据えた。
作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白