忘れじの夕映え 探偵奇談8
知っている。こいつは、知っているんだ。
こいつも、自分の転生に関わっている人間なのか?
「…おまえは一体誰だ?」
真正面から見つめる瞳の中に、瑞自身の姿が映り込んでいる。笑みを浮かべたままの颯馬と対峙し、瑞は得体のしれない恐怖に包まれる。心の底どころか、自分の知らない心の領域までも見透かされているような、根源的な恐怖。
「おい瑞!」
「あ…!」
誰かが叫ぶのが聞こえたときには、目の前の颯馬は二塁に向かって風のように駆けだしていた。
「天谷ナイス盗塁!さすが陸上部!」
「イエーイ!ホームまで帰るから打ってねー!」
二塁ベースの上で、颯馬が笑顔を見せている。
盗塁されたことよりも、先ほどの言葉がショッキングで、瑞は棒立ちのまま動くことができなかった。
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作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白