忘れじの夕映え 探偵奇談8
昼休み。瑞は秋空の下でクラスメイトらと野球をして遊んでいた。広い校庭の上には青空が広がり、なんとも心地がいい。瑞はファーストに立ってぼんやりと空を見上げている。全然ボールが飛んでこないから、緊張感も空の奏多へ吹っ飛んでしまった。
「へいへーい」
「しっかり打てよー」
「ねー守備めっちゃ暇なんだけど」
「うるせー瑞!おめーんとこに打ってやるからなー!」
「はい三振~」
「チクショー」
バカ騒ぎを楽しんでいると、遠くから名前を呼ばれた。
「瑞くーん!」
「あ、颯馬」
食堂帰りらしい颯馬が、女子生徒二人と並んで渡り廊下のほうで手を振っている。
「野球?俺もまーぜーてー」
「いーよ。ちょうどバッター一人足んないから、バッターボックス入ってよ」
「はいよ」
よろしくーと軽い挨拶をしてゲームに入る颯馬。あっという間に他の連中の心をつかみ、打ち解けている。彼といた女子二人は、バックネットの裏でうっとりとした表情を浮かべていた。
(人徳ってやつか?)
馴れ馴れしいやつめ、と不愉快にならない愛嬌のよさ。何をしてても愛される人間というのがいるのなら、颯馬のようなやつを言うのだろう。どうしたらこんなふうに育つのだ?愛されるというのは、持って生まれた才能なのだろう。
「わっしょーい!」
颯馬は景気よくセンター前へヒットを飛ばし、軽快な足取りで瑞のいる一塁までやってきた。
「あんま跳ばなかったや」
ニコニコしながらそう言って、ベースを踏んずける颯馬。
「野球久しぶりだけどたのしーね」
「そりゃよかった」
「ねー今はなんの幽霊調査してんの?」
「してないよ、別に…」
嘘ばっかり、と颯馬が笑う。やはり食えない奴なのだ。へらへらしているけれど、鋭い洞察力を持っている。
作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白