忘れじの夕映え 探偵奇談8
まぶたの裏が、明るく光っている。オレンジの夕映えの色。そっと目をあければ、そこはきっと、あのススキ野原だ。幼いころの、思い出の場所。聞こえてくるのは子ども達の声。
(ああ、もう起きなきゃ。遊んでる途中で眠っちゃったんだ、あたし)
だけどまぶたが重くて開けられない。眩しいオレンジ。心地よい風。このままもう少し眠りたい。青葉はそう思う。
――青葉ちゃん
優しい声がそばで聞こえる。もうすっかり聞きなれた、静かでゆったりとした声だ。
――眠っちゃったの?
答えたいのに、頭がぼうっとして、夢と現を行き来しているようで声を出すのが億劫だった。
――おきて。風邪、ひいちゃうよ
右手に、柔らかな感触。手を繋ぐ。
「…あっくん、」
自分よりずっと女の子みたいな柔らかい手の感触。握り返すと、あつしが笑ったような気配が伝わる。
――青葉ちゃん、夕日が沈むよ。きれいだね…
作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白