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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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忘れじの夕映え 探偵奇談8

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夕映えの約束



部活が終わり、部員達が散っていく。顧問との話し合いを終え、伊吹も帰り支度を整えようとする頃、外はもう真っ暗だった。着替えようと更衣室の襖を開ける。真っ暗闇の中、部屋の隅に何かがうずくまっているのが見え、思わず悲鳴をあげた。

「ギャッ!」
「あ、お疲れさまです…」

瑞の声だ。電気をつけると、彼は大きな体を折り曲げるようにして、隅っこで膝を抱えているのだった。

「暗闇で膝抱えてなにしてんだ…もう帰れよ。閉めるぞ」

座敷童子かと思ったじゃないか。

「…今日、クラスの女子にホッペぶたれました」

沈んだ声で彼は言う。

「はあ?何したんだよ」
「ちょっと嫌な気持ちにさせたから俺が悪いんだけど…なんか地味にショックで」

落ち込んでいるようだ。仕方ない、話を聞いてやるかと隣に座る。瑞はいつになく気落ちした声で、クラスメイトの女子から聞いたという不可思議な話を伊吹に語って聞かせた。

確かに存在していた友人のことを、みんながみんな忘れてしまっているという不可思議な話を。

「…言い方悪かったなって、反省してます」

死んだ人間が視える。瑞が当たり前のように持っているその能力は、殆どの人間が眠らせている力だ。伊吹はこれまでに幾度も、瑞の不可思議な力に触れてきたが、彼に世界はどう見えているのだろう。伊吹は今日まで想像したこともなかった。視たくないことはきっとあるだろうに。自分の視えたものを伝えることで、傷つくひともいる。瑞はそう言ってため息をつくのだった。

「先輩は初恋って覚えてる?」

唐突に聞かれた。

「ん?初恋か…そうだなあ、小学校のときの同級生とかだったかな」
「俺は、保育園のときのミホ先生」
「そのころから年上好きを発揮していたのか…」
「今でも思い出せるよ。優しくって綺麗で、俺が卒園する前に結婚したときは結構本気でショックでさ…」

こいつにも、そんなかわいい時期があったのかと、伊吹は微笑ましくなる。つい口元が緩んでしまった。

「こういう記憶って、やっぱ特別じゃん。だから瀬戸に、それが妄想だったとか気のせいだったとか、そんなふうに片付けてほしくなくて、それで本当のこと、話さなきゃって思ったんだけど…間違えたかなあ…」

別に間違っちゃいねえよ、と伊吹は励ましたくてそう答えた。不器用なやつだと思う。